第2回:選択するハイブリッドワーカー - 知的生産性研究所のナカシマコラム

働く場所の選択肢 生産性の向上

2020年、「働く」を取り巻く環境や認識は大きく変化しました。この1年以上に及ぶパンデミック禍の中で、何を経験し学習できたのでしょうか。また、未来のためにどのようなことを考えていくべきなのでしょうか。「知的生産性研究所のナカシマコラム ~働くを前へ。働くを明日へ。(全5回)」では、それらの問いを、社会環境の変動と進化する働き方を30年あまり見つめてきた知的生産性研究所の所員の視点から紐解き、これからの働き方を皆さまと一緒に考えていきたいと思います。

11月8日、経団連から政府に対し、「出勤者7割削減」について無くしていく方向で見直すべきだという提言がなされました。(朝日新聞デジタル: テレワークなどで出勤者7割減「見直すべき」 経団連が政府に提言 2021年11月8日)
この提言は在宅勤務そのものを無くそうというものではないですが、感染予防のための在宅勤務の推進という大きな流れが終わりつつあることの象徴とも捉えられます。
一方で、前回のコラムでも触れたように在宅勤務という勤務形態はこれからの多様性のある働き方のための制度として継続しての導入や浸透が進んでいます。働き方が先進的な企業ではそれに加えてレンタルオフィスやサテライトオフィスなどの拡充も推進されています。

オフィス以外の場所でも働くハイブリッドワークという働き方が社会的に一定の地位を得る中でますます重要性が上がることは、働く場所を「自分で」選択するということです。というのも多種多様な働く場所の内、個々のワーカーにもっとも適した働く場所はそのワーカー本人こそが答えを持っているからです。

オフィス内における働く場所の選択肢を潤沢にする考え方はパンデミック以前のオフィス設計のトレンドでした。フリーアドレスと呼ばれる固定の自席を持たない働き方や、業務活動に合わせて働く場所を選ぶActivity Based Working(以降ABW)と呼ばれる働き方を実現する多様な空間や什器が整備され、同じオフィス内でも豊富な働き方ができるオフィスが作られました。ABWが導入されたワーカーは場所の柔軟性と引換に、その日の業務内容や自身の気分に合わせてオフィス内の場所を選び取るというゆるやかな自律性が求められました。パンデミック後のハイブリッドワークにおいても同様に、業務内容や活動に合わせて、そもそも出社するのか否かというところからの選択が個人に求められるのではないかと思います。

ここで自ら判断し選択する重要性について、過去に海外で行われた研究をご紹介したいと思います。
2015年のニコラス・ブルームらによる共同研究では在宅勤務制度の採用と制度に対する自主的な選択肢の提供のメリットが示されました。この研究では中国のコールセンター勤務者を対象に実験が行われ、実験参加を希望する従業員は9か月間ランダムに自宅かオフィスでの勤務に割り当てられました。その期間の業績を観測した結果、自宅に割り当てられたワーカー群では13%のパフォーマンスの向上が見られました。また、9か月の実験期間終了後に実験参加者以外の人でも在宅勤務を選択できるよう制度を整え全社に展開した上で、改めて実験参加者に継続して在宅勤務を実施していくかオフィス勤務に戻るかを自分の意思で選択してもらったところ、前者を選択したワーカー群では実験前に比べて22%ものパフォーマンスの向上が見られました。これは、人は最も適した環境を自ら学習し判断したほうがよい可能性を示しています。

もちろん働き方や仕事内容は業種業態により大きく異なるため、このニコラス・ブルームらによる研究結果から短絡的に在宅勤務を導入し自由に選択できるようにすればワーカーの生産性が向上するという結論を導き出せるわけではありません。しかしパフォーマンス以外の面でも介護や育児、体調など流動的に変化する状況に応じた働き方を選択できることは、結果的にワーカーと企業双方にメリットがあるといえるでしょう。先述の経団連の提言でも一律な出勤者数の削減による経済活動への支障は懸念されていますが、テレワーク自体は多様な働き方を認める観点からも続けるべきだとされています。

ワーカーが自ら選ぶ働き方を実現させるためにはワーカー自身が経験や学習を経て最適な環境を見つけていく必要があります。そういう意味では多くのワーカーがリモートワークを経験できた現在はそれぞれが何かしらの個別解を見つけ始めていると思います。
企業側においても、そもそも勤務場所の選択肢はどれくらい提供できているのか、センターオフィスはどんな役割を果たすのか、ワーカーは自由に選択するだけの自律性を持ち合わせているのか、人事制度をどのように変えていくのか、と多くの事を問い直す必要があります。
あなたの企業ではどれくらいの選択肢や選ぶための支援が提供できているでしょうか?
また、あなた自身も「自分で決めて、自分で選ぶ」ために自己の意思や適性を見つけられているでしょうか?
パンデミックによるリモートワークの経験を無駄にしないためにも、是非この観点から考えてみてください。

著者
著者中島 崇博(株式会社内田洋行)
知的生産性研究所のコンサルタントとしてお客様の働き方改革プロジェクトを現場でご支援する傍ら、オフィスや働き方に関する文献調査、レポート作成などを担当している。携わった主なプロジェクトは、経営幹部意識改革プロジェクト(製造)、 働き方変革プロジェクト(サービス)、製造工場改革プロジェクト(製造)など。

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