企業の競争戦略=差別化戦略です。自社独自の価値を表現するオフィスづくりに必要なのが5つの「らしさ」です。それぞれの「らしさ」を組み合わせることで、唯一無二のオフィス空間を創造できます。
1.人間らしさ ~自然とのつながり~
人類は数百万年を自然の中で過ごしてきました。視野の10〜15%を緑が占めるとストレスが軽減され、フローリングや木の天板などの木視率(視野に占める木の割合)を50%程度まで取り入れると気持ちが積極的になるとされています。
自然光を取り入れるなど、四季や時間による光の変化を感じられる工夫は最も効果が高く、ブラインドは「開けておく」のが正解です。日本の縁側のような伝統的な建築手法を現代オフィスに応用し、光や風を自然に取り込む工夫も増えています。水、揺らぎ、音といった自然要素も「場」の質を高めます。
2.日本人らしさ ~ほどよく囲う安心感~
日本人は世界的に見ても不安を感じやすい民族といわれます。完全にオープンな空間では集中しにくいという声も多く、障子や屏風の文化に基づいた可動式の間仕切りやグリーンで「ほどよく囲う」設計が有効です。これにより会議室不足も柔軟に補うことができます。
3.その人らしさ 〜“選べる”から生まれる快適さ〜
人は、自分の業務や気分に合わせて環境を「選べる」ことで、安心感や快適さを感じやすくなります。たとえば明るい場所で集中したい日もあれば、静かなコーナーで落ち着きたい日もあるでしょう。座席や設備だけでなく、デザイン・明暗・温度といった要素を自由に選択できると、自分にとっての"お気に入りの場所"が生まれ、オフィスに行きたくなる理由につながります。
この考え方を体系化した仕組みの一つがABW(Activity Based Working)です。業務内容や目的に応じて最適な場所を選択して働くという考え方で、"選べること"自体が働く人のモチベーションや満足度を高めます。
4.部門らしさ 〜機能に応じた最適配置〜
生産性には「効率性」と「創造性」の2面があります。まんじゅう屋にたとえると、効率性は今作っているまんじゅうをもっと多く早く作ること、創造性は今までにない新しいまんじゅうを生み出すことです。
同じ環境で両方を満たすのは困難なため、部門ごとの機能に合わせた「部門最適」の場づくりが必要です。部門には他部門との交流を重視するタイプと、同一部門内の交流を重視するタイプの2つがあります。手際よく処理する部門は固まった方がよく、新しい発想を生む部門は散った方が効果的です。グループアドレスで部門を固め、中央にコラボゾーンを設け、3カ月ごとに隣接関係を入れ替える運用で"ぶつかり方"をデザインできます。
5.企業らしさ 〜価値観の見える化〜
壁面・展示・アートで自社の歴史や価値観をストーリーとして"見える化"する工夫が有効です。
ある企業では、壁面に大きく獅子舞の絵を描きました。よく見ると、中にいる人の足の形はそれぞれ違います。これは「多様な人材がいても、同じ目標に向かってスクラムを組む会社」という価値観を表現しているのです。社員は毎日その絵を目にすることで、自然とメッセージが刷り込まれていきます。
別の会社では、受付の壁に歴代社長の顔が描かれています。体の部分は握手をしていたり、ユニークなポーズを取っていたりと、来客には一見意味が分かりません。だからこそ「これはどういう意味ですか?」と尋ねられ、案内する社員が説明する機会が生まれます。そのプロセス自体が、会社の歴史や価値観を相手に伝え、さらに社員自身も再確認する仕組みになっているのです。