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オフィスでのアコースティックデザイン

2024年04月02日

アコースティックデザイン_ハイブリッド会議室
音響設計 心地よいオフィス環境

アコースティックデザインという言葉をご存知ですか?このコラムでは、近年のオフィス環境で起こっている音の問題と、それに対するアコースティックデザインの取り組みについてご紹介いたします。

アコースティックデザインとは

アコースティックデザインとは、簡単にいうと、空間や目的に合わせ音響をデザインするということです。分かりやすい例としては、コンサートホールや、録音スタジオ等の専門領域での音響設計が挙げられます。しかしながら、それ以外の領域でのアコースティックデザインはまだまだ一般的ではありません。

あらためて周りを見渡すと、商業施設や公共施設、学校、オフィスなどではさまざまな音の問題が起こっているのは事実です。ですが、そのような場での音響設計は音の問題に対する対処的なソリューションがほとんどで、音響のデザインをしているとは言いにくいのではと考えています。

オフィスの音環境に関心が払われてこなかった理由

産業革命以降、現代のようなオフィスという場が出現し、それを形作る手法やプロダクト、問題解決のソリューションや情報技術が生まれ、オフィスのデザインが多様に展開されてきましたが、今回紹介するオフィスの音環境をデザインするという領域は、改めて見ると皆無と言って良いのではないでしょうか。

多くのオフィスは企業が提供するため、個人宅などに比べ設備に対して多くの投資がされることが一般的です。また、空間を構成する材質や家具、用途はある程度想定できるため、そこで生じる音の問題も比較的わかりやすいはずですが、残念ながらオフィスの音環境の改善に積極的に投資し、より良いものにするという動きは少なかったように思います。それは、音響に関する商品の種類や、わかりやすい音響の設計評価手法が確立されていない状況から見ても言えます。

このような状況である理由としては、大きく二つの原因が考えられます。
1.空調や照明のように健康被害が直接的に表れず、音環境が悪いことに気づきにくい。
2.オフィスの設計、完成段階で、音環境の良し悪しがどの程度なのか把握しづらい。

これらが主な原因となり、オフィスの音環境は重視されてこなかった、又は取り組んでこられなかったのではないでしょうか。

そもそも、オフィスは管理と効率が最優先される場であり、オフィスをより心地良く豊かなデザインにしようと言うこと自体、積極的に行われてこなかったのが、多くの日本のオフィスであったと思います。
しかし、働き方が変わりワーカーの意識も変わってきたことで、オフィスの豊かさや快適性について急速に重要視され始めたと私たちは考えています。

働き方の変化 オフィスに求められる豊かさ・快適性

近年、都市部で働く人々の働き方は急激に変化しました。技術的には、ITやデバイスの進化やグループウェアの活用によりどこでも組織との繋がりがもてるようになり、さらに社会的にも多様性が求められ、極端に言えば、私たちは企業が用意したオフィスに行くか行かないかを選択できるようになりました。

自宅やサテライトオフィスで仕事をするテレワークが浸透する一方で、オフィスに人が集まり、顔を合わせながら仕事をする良さは、再び重要視されたように思います。オフィスに集まる良さは様々な所で論じられているためここでは割愛しますが、これにより、企業はオフィスを「人々が集まり新たな価値を共創する場」としてとらえ、ワーカーが行きたくなるような豊かで心地よい環境と、偶発性が高まり創造性が発揮できる仕組みをデザインすることがオフィスの設計には求められています。
その中で、豊かで心地よいオフィス環境を作るためにも、快適な音環境をデザインすることは重要であると私たちは考えています。

音環境の調整が求められる会議室の例

小・中規模会議室のイメージ
大規模会議室のイメージ
配信ルームのイメージ

オンライン会議の増加で明らかになったオフィスの音環境の悪さとその弊害

人々が実際に集まるオフィスでは、コミュニケーションの活性化が求められています。そのため、オフィスのプランニングはオープンレイアウトが主流であり、偶発的な会話がうまれる場が様々設けられています。
その一方で、従来のような会議室での打ち合わせやプロジェクトルームでのワークショップも、より頻繁に行われるようになりました。そして、その場でのコミュニケーションは、そこにいる人同士の会話と同時にオンライン上でも行われ、それにより様々な音の問題が認識されるようになりました。

一般的に、会議室のような閉じられた空間の多くは、壁面がスチールパネルやガラス面で構成されています。その様な素材は音を反射しやすく、同じ音が何度も部屋内で反射してしまい、音が混ざり合ってうるさく聞こえたり、不明瞭な音になります。
反対に、それらを解消しようと吸音材を入れたとしても、その量が多すぎると吸音過多になり、かえって音が不自然になってしまう等、問題が起こりやすい環境です。

とはいえ、それもその場にいる人々同士の会話の場合、相手の反応が確認できたり、お互いの気遣いによって会話のしづらさは軽減され、疲れたら休憩する等も気軽にできるため、空間の音響の悪さによる疲労感が気になる人は少なかったのかもしれません。

しかし、オンライン会議では、スピーカーから一方的に発せられる様々な音量や音質の音が、音響対策が不十分な会議室の壁や天井面からの反射音と混ざり聞きたい音声を不明瞭にしやすく、聞き取りづらさや話しにくさがはっきりと認識されるようになりました。

ハイブリッドな会議を経験した人の多くは、そのような音環境の悪さによるストレスと疲労感を経験したことがあるのではないでしょうか。
オンライン会議用のデバイスによっては、音の劣化を防ぐため、周波数補正を自動的に行い会話を聞きやすくするものもありますが、そもそも、音響の対策が適切でない部屋では、不要な部屋の響きや反射、過度な吸音によって色付けされた音声を、本来のものに戻すのは簡単ではありません。そのため、会議室自体の音響を良いものにし、話しやすく聴こえやすい環境を作ることは、オンライン会議だけでなく、その場にいる人同士のコミュニケーションのしやすさにもつながり、それにより疲労感は軽減され、オフィスの快適性を向上させることができると私たちは考えています。

会議室の音環境を快適に調整するための家具システムの提案

オンライン会議向けの会議室の例
昨年、内田洋行では、日本音響エンジニアリング社と大建工業社との協業で、日本音響エンジニアリング社の商品「Meleon」をベースとした、オフィスの会議室に向けた音響デザインの最適化ができるプロダクトを発表しました。
具体的には、柱状拡散体(AGS)と吸音体(Filler)の組み合わせの特性を踏まえ、会議室や、セミナー・配信ルームなどの閉じられた空間での利用を想定し、音環境の改善による、会議室の快適性を向上させることを目指しています。

一般的な会議室は、長方形のテーブルに対面で座り、短手にモニターとホワイトボードがある形式が多く見られますが、近年のオンライン会議室では、長方形や扇型(シェル型)のテーブルに、横並び又はハの字に座り、その正面に大型モニターと会議用のスピーカー、マイク、カメラが一体となったデバイスが置かれるという、今までとは違う形が現れてきました。
このような空間では、一般的な会議室で起きる音の問題と、オンライン用のデバイスの使用によって起こる音の問題に加え、会議室や配信ルームに必要な機器類を、どのように空間にレイアウトしていくかという問題についても解決する必要があります。

AGSとFillerは、部屋のどこに置くかでその部屋の音響特性が大きく変わるため、部屋の壁面への設置がある程度自由である必要があります。
また、先程の説明のようにオンライン会議をするためには、モニターやカメラ、マイクスピーカー等が必要なため、AGS+Fillerとそれらデバイスを壁面にどうレイアウトするか考慮する必要があります。そこで、それぞれを設置するための会議室のインフラとなる壁面棚のシステムをデザインしました。
このシステムの利用によって、AGS、Fillerの設置は、部屋や用途の音響特性に合わせ、後からでも置く場所を変更することができます。また、モニターの取付けや、デバイスの設置、それぞれの配線も、システム内で完結し、既存会議室の壁面への加工は最小限に抑えられます。
つまり、音響が良く快適な会議室の構築と、オンライン会議に必要な設備が常設された会議室へのアップデートを、同時にフレキシブルに行うことができるというものです。

AGSとFillerは一般的な棚のモジュールに合わせたサイズ設計をしているので、今回デザインした棚以外のオープンシェルフなどにも流用することが可能となり、今後は、会議室だけではなく、プロジェクトルームなど、様々な空間への展開も見据えています。

会議室向け調音家具システム製品構成案

会議室向け調音家具システム製品構成案

オフィスをはじめとした一般空間のアコースティックデザインの普及をめざして

音響デザインは、照明デザインのようなプランニング手法が確立されていません。また、デザイナーにとって対象の空間が、音響的にどのような特性を持っているか、簡易に評価することも難しいのが現状です。

内田洋行では、製品の開発と並行して、照明デザインの設計手法のように、音響減衰波形変動の数値指標をもとに、知識を習得すれば空間の目的に合わせたアコースティックデザインが可能になる指針の作成を進めております。そして、オフィスをはじめとした一般空間のアコースティックデザインの普及に今後も取り組んで参ります。

[2024.04.02 公開]

ライブオフィスでご体感いただけます

  • 東京新川第2オフィスのイメージ
    柱状拡散体(AGS)と吸音体(Filler)を設置した会議室を、東京 「THE PLACE for Change Working」でご覧いただけます。お客さまのオフィスづくりや音環境の課題解決のヒントとなれば幸いです。
    東京の見学予約お申込みフォームはこちら
山田 聖士
著者山田 聖士(株式会社内田洋行)
オフィス商品企画部でデザインを担当。 美大卒業後、1年間同社でアルバイトをしながら就職浪人後入社、現在入社17年目。
普段は主に座りモノをデザインすることが多いが、研究開発的な活動や物件での特注家具設計、国産木材関係の生産地でワークショップ等も行う。 関わった製品は、ELMARApteaMU chair日本の木でできた家具等。
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