セミナーレポート

データの力で「戦略総務」へ進化する。成果の上がる、行きたくなるオフィスへの処方箋

月間総務 データ活用の例 戦略総務に求められる役割

出社回帰が進む今、オフィスの存在意義が改めて問われています。AIデータ活用と現場観察を掛け合わせ、経営・現場・総務の認識のズレをどう埋めるべきか。月刊総務の豊田健一氏が語る、総務による経営貢献の具体策をレポートします。


2026年7月9日、「UCHIDA FAIR in 名古屋」において、株式会社月刊総務・戦略総務研究所所長の豊田健一氏によるセミナー「成果の上がる、行きたくなるオフィス」が開催されました。
内田洋行が実施した調査では、「自宅よりオフィスのほうが生産性が高い」という企業は84.4%に達しています。出社回帰が進む一方で、現場では席不足への不満、経営は投資対効果への疑問など、認識のズレも広がっています。本セミナーでは、AIによるデータ分析と現場観察を組み合わせ、総務が経営に貢献するための具体策が紹介されました。

講師



株式会社月刊総務 戦略総務研究所所長
豊田 健一 氏

何のためのオフィスか? 働き方と成果の一致点を探る

経営・社員・総務の目線のズレを解消する

オフィス構築において最初に乗り越えるべき壁は、関係者間の目線のズレです。設計段階において、経営層は投資対効果や利益への寄与といった持続的な成長を重視し、社員は仕事のしやすさや自分たちの居場所としての快適さを求めます。そして総務は、管理の容易性や柔軟性を意識しつつ、両者の板挟みになりがちな立場にあります。

このバラバラな目線を一つにまとめるために重要なのが、オフィスを目的ではなく手段、すなわち現場が生産性を高めるための入れ物と再定義することです。オフィス移転や構築において最も大事なのは、どのような働き方が自社にとって最も成果を上げるのかという一致点を探ることです。ここを明確にしないまま議論を進めてしまうと、プロジェクトの方向性が定まらず、三者の議論はいつまでも噛み合いません。

オフィスを、自社らしさを体現する加速装置にする

働き方の共通認識を探るプロセスには、その企業らしさという視点が欠かせません。オフィスは企業のアイデンティティや行動指針を浸透させる加速装置でもあります。例えば、ある外食チェーンでは本社のリフレッシュルームを店舗そっくりのデザインにし、現場のために本部があるというメッセージを社員に体感させています。

自社のバリューやストーリーを空間に埋め込み、働き方の共通認識を作ることで、初めて戦略的なオフィス構築が可能になります。そもそも何のためのプロジェクトなのかという原点に立ち返り、成果の上がる働き方の共通認識を持つことが、成功への第一歩となります。

「席は空いている」のに座れない~データだけでは見えない現場の実感~

データ上の事実と、現場の実感の乖離

フリーアドレス制を導入している企業で現在起きている「座席が足りない」という課題に対し、数値上の事実と、現場の実感の乖離を正しく認識する必要があります。

例えば、フリーアドレス席として3人掛けのテーブルがあり、両端に人が座って真ん中が1席空いている状態を想定します。データ上の稼働率は66パーセントであり、客観的にはまだ余裕があるという事実になります。しかし、知らない人の間に割り込むことに強い心理的抵抗を感じる日本人にとって、そこは座れない席であり、現場にとっては席が足りないという切実な真実となります。数字だけを見て現場の声をわがままだと切り捨ててしまうと、運用実態を見誤ることになります。


現場を歩き想定外の創意工夫を拾い上げる

こうした乖離を埋めるのに有効な手法が「ぶらぶら総務」です。総務自らが社内を歩き回り現場を観察することで、データには表れない現場の空気感や、社員のリアルな行動パターンを肌で感じることが重要です。

あるIT企業では、リフレッシュ目的でマッサージチェアを設置したところ、社員同士が並んでマッサージを受けながら1on1を行っている光景が見られました。これは運営側の想定を超えた、現場が自発的に生み出した有意義な活用法です。総務がこうした現場の創意工夫を拾い上げ、取材して社内報などで紹介することで、空間に新しい意味付けがなされ、より価値ある運用へと高めることが可能になります。作って終わりではなく、運用が始まってからの改善こそが、オフィスの価値を最大化させます。

人間の本質と幸福経営(ウェルビーイング)を支える、不易流行のオフィス戦略

流行のツールに踊らされず、不変の本質を見抜く

オフィス戦略の確固たる指針となるのが、松尾芭蕉の言葉として知られる不易流行の哲学です。不易とはいつまでも変わらない本質的なことであり、流行とは時代とともに変化する新しい手段や手法を指します。

不易の本質とは、時代や働き方が変わっても揺るがない組織成立の三要素である共通目標、貢献意欲、コミュニケーションです。また、ホモ・サピエンスという生物学的な存在である限り、物理的な場所を必要とし、意欲的に働きたいと願う本能も不変です。流行のテクノロジーは、あくまで不易である人間のパフォーマンスを引き出すための武器であることを忘れないようにしましょう。

幸福経営(ウェルビーイング)の4要素を満たす環境を整える

近年、多くの企業が経営課題として幸福経営(ウェルビーイング)を掲げています。幸福経営の実現には、会社と個人の想いが重なる「パーパス(目的)」、自分らしく働ける「オーセンティシティ(自分らしさ)」、相互理解を深める「リレーションシップ(関係性)」、そして心身の健康を指す「ウェルネス」の4要素が欠かせません。

心身の健康を保ち、快適に働くためには「人間らしさ」と「日本人らしさ」への配慮も重要です。人間は本能的に自然を求めるバイオフィリアという性質を持っており、オフィスに植物を取り入れ、緑視率を10から15パーセントに整えることで、幸福度や創造性を高めることができます。また、不安を感じやすいとされる日本人の民族特性を考慮し、オープンすぎる空間ではなく、カーテンやグリーンでほのかに囲われる安心感を設計するのも効果的です。教育された人材が最大限に輝ける「働く場」を整えてこそ、人的資本経営という大きな経営課題に応えることができるのです。

AIが総務を経営の参謀に変える

マルチモーダルデータで組織の勝ち筋を可視化する

戦略総務の強力な武器となるのが、人事データや環境データ、行動データなど、複数種類の情報を統合するマルチモーダルデータの活用です。社内に点在するデータをAIで統合・分析することで、これまで見えなかった組織の勝ち筋につながるインサイトを導き出すことができます。

例えば、オフィスの二酸化炭素濃度とパソコンのタイピング速度をクロス分析することで、生産性が低下するタイミングを把握し、環境改善につなげることができます。また、社内交流イベント後の位置情報とチャット量の変化を分析すれば、施策の効果を定量的に検証でき、データに基づくPDCAを回せるようになります。

さらに、残業時間という人事データに、オフィス内での移動履歴や社員同士の交流状況などの行動データを組み合わせることで、バーンアウト(燃え尽き症候群)の予兆を早期に察知し、適切な対策を講じることも可能です。

このように、マルチモーダルデータを活用することで、これまで見えにくかった因果関係を可視化し、総務は経験や勘だけではなく、客観的なデータに基づいて経営へ提言できるようになります。


経営者の意思決定を支えるインテリジェンスの提示

データ活用において最も重要なのは、単なる現状報告である情報の報告(Information)で終わらせないことです。客観的なデータを経営者が判断しやすい具体的な解決策へと整理し、インテリジェンス(Intelligence)として提言することこそが、戦略総務に求められる本来の役割です。

具体的には、分析結果に対し、コストや効果に応じた松竹梅の案を、総務としての推奨理由とともに提示します。経営者が即座に決断するための材料を届けることで、総務は経営のスピードと質を上げる強いパートナーとなります。

結び:総務は舞台の演出家。すべては従業員が輝くために


総務の役割は、オフィスという舞台を「創り、守り、整える」演出家です。役者である従業員が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、最適な環境を創り、リスクから守り、企業文化が根付く場を整える。この三位一体の働きかけが、組織の持続的な成長を支える基盤となります。

教育された人材が最大限に輝ける舞台を整えてこそ、人的資本経営という経営課題に応えることができるのです。AIによるデータ分析と現場観察を組み合わせ、人が輝く舞台を整えること。それこそが、これからの戦略総務に求められる役割といえるでしょう。

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[2026.9.8公開]

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著者オフィス分野 コラム編集チーム
内田洋行オフィス分野のコラム編集チームです。オフィス空間づくりやオフィスデザイン、働き方に関するお役立ち情報やトレンド情報をお客さまにご紹介します。
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