第1回:「自分で考えて」だけでは、人は育たない ~主体性を引き出す、育成の仕組みづくり~【学び方のアップデート】

「学び方のアップデート」変わる時代の、人と組織の育ち方
生成AI時代の新人育成 行動の具体化 上司の関わり方

私たちを取り巻く環境は、これまでになく速いスピードで変化しています。AIの進化や働き方の多様化により、求められる知識やスキルはもちろん、「学び続ける力」そのものの重要性が高まっています。こうした中で企業に求められるのは単に人材を育成する仕組みだけではなく、一人ひとりの成長と組織の成長が循環する環境をつくることではないでしょうか。 連載コラム「学び方のアップデート ~変わる時代の、人と組織の育ち方~」では、人材育成や組織開発、人の成長支援に携わるさまざまな専門家がリレー形式で登場します。それぞれの経験や実践知を通して、これからの時代の「学び方」と「育ち方」をともに考えていきます。

生成AIが急速に身近になるなか、新入社員の仕事の進め方や学び方も変わり始めています。分からないことをAIに尋ね、文章や資料のたたき台を短時間でつくる。そうした姿は、職場では当たり前になってきています。

一方で、AIが示した答えをそのまま使う、根拠を十分に確かめない、自分の考えを説明できないといった課題も起こり得ます。こうした状況を前にすると、私たちはつい「AIに頼りすぎず、自分で考えてほしい」と言いたくなります。

しかし、ここで改めて考えたいのは、新入社員本人の姿勢だけではありません。そもそも私たちは、新入社員が自分で考え、判断し、行動できるようになるための育成を、十分に設計できているでしょうか。

人材育成においては本人の意識だけに期待するのではなく、望ましい行動が自然に生まれ、繰り返される仕組みをつくることが重要だと考えています。

生成AIの登場は、AIの使い方を教える必要性だけでなく、これまでの新人育成そのものを見直すきっかけを与えています。「自分で考えて」「もっと主体的に」と求めるだけではなく、新入社員が考え、試し、振り返ることのできる環境をどうつくるか。いま、育成する側の学び方もアップデートすることが求められています。

「自分で考える」を行動に分解する

新人育成を見直すうえで、まず考えたいのが、育成現場でよく使われる「自分で考えて」という言葉です。

一見、もっともな指導に思えますが、新入社員にとっては、①何を ②どのような順序で考えればよいのかが分からないこともあります。大切なのは、「自分で考えること」を求めるだけでなく、実際に行動できる形まで具体化することです。

生成AIを使った資料作成を例に考えてみましょう。部下が生成AIで作成した資料を持ってきたとき、上司が「AIに任せきりにせず、自分でも考えて」と伝えても、それだけでは本人に何を変えればよいのかが伝わらない可能性があります。

そこで、「自分で考える」という曖昧な言葉を、次のような行動に分解します。

  1. AIを使う前に、自分なりの仮説を持つ
  2. AIから得た情報の根拠を確認する
  3. 複数の選択肢を比較する
  4. 採用する内容と採用しない内容を決める
  5. 最後は自分の言葉で理由を説明する

こうした手順が共有されていれば、本人は何を実践すればよいのか分かります。上司も「自分で考えたのか」と抽象的に問うのではなく、「AIを使う前に、どのような仮説を持ったのか」「なぜこの案を選んだのか」と、具体的なフィードバックができます。

大切なのは、考える力を本人の能力だけに委ねず、考えるプロセスを共通の型として持つことです。

生成AIは答えを代わりに出してもらう道具ではありません。自分の考えを広げ、見落としに気づき、判断の質を高めるための道具です。そのような使い方を身につけるには、「まず考え、AIを使い、疑い、選び、説明する」という一連の行動を繰り返す必要があります。

抽象的な目標では、振り返れない

育成の現場で、「積極的に行動する」「周囲とコミュニケーションを取る」「当事者意識を持つ」といった目標が使われることがあります。

しかし、これらは解釈の幅が広く、本人も上司も達成できたかを判断しにくい言葉です。評価できなければ、振り返りや改善にもつながりません。

例えば「積極的に質問する」という目標は、
・午前中に一度、先輩へ質問する
・会議で一回以上、自分の意見を述べる
・分からないことを放置せず、その日のうちに確認する
といった行動に置き換えられます。

ポイントは、本人以外の人が見ても「できた」「できなかった」を判断できる粒度にすることです。
そして、一度設定して終わりにせず、定期的に振り返ります。

「できなかったのは意欲がないから」と決めつけるのではなく、目標が難しすぎなかったか、質問しにくい雰囲気ではなかったか、仕事の目的を理解できていたかなど、行動を妨げた要因を確認します。

目標を具体化し、実行し、振り返り、次の行動を変える。

この小さなサイクルを繰り返すことが、主体性や計画力、課題発見力の育成につながります。

経験の機会に「役割」を組み込む

主体性を育てるには、本人が判断し、周囲に働きかける経験も必要です。

ただし、単に「主体的に参加してください」と呼びかけても、いつも発言する人や、もともとリーダーシップのある人に役割が偏りがちです。控えめな人は、参加していても受け身のまま終わる可能性があります。

日常業務やチーム活動の中に、全員が「ある場面でメンバーをリードする」役割を担う機会を、あらかじめ組み込みます。

例えば、
・会議の進行役
・議論を記録する役
・情報の根拠を確認する役
・問題点やリスクを指摘する役
・最終案を発表する役
などです。

役割を定期的に交代すれば、全員が発言、判断、調整、説明を経験できます。

リーダーシップを知識として教えるだけでなく、小さなリーダー経験を意図的に配分する。これも、個人の積極性だけに頼らない育成の仕組みです。

上司は「答える人」から「考えさせる人」へ

育成の仕組みを整えても、上司がすぐに正解を教えてしまえば、本人が考える機会は減ってしまいます。

部下から相談を受けたとき、「こうすればいい」と即答する前に、
・あなたはどう考えている?
・どのような選択肢がある?
・その案を選んだ理由は?
・相手はどう受け取ると思う?
・生成AIの回答に、あなたなら何を加える?
と問いかけることで、本人の思考を引き出せます。

もちろん、緊急時や経験の少ない業務では、具体的な指示が必要です。重要なのは、すべてを本人に考えさせることではなく、教える場面と、考えさせる場面を意識的に使い分けることです。

また、本人が生成AIを使ったこと自体を否定するのではなく、活用を認めたうえで、「あなた自身はどう判断したのか」を確認します。AIの利用を隠させず、考えた過程を共有できる関係をつくることも、適切な活用を定着させるうえで重要です。

人が育たない原因を、本人だけに求めない

人材育成がうまくいかないとき、私たちはつい「本人に主体性がない」「学ぶ意欲が足りない」と考えがちです。
しかし、本当に本人だけの問題でしょうか。

求める行動が具体的に共有されているか。試してみる機会があるか。失敗しても振り返れるか。上司が答えを与えすぎていないか。行動に対するフィードバックがあるか。こうした環境が整っていなければ、意欲のある人でも成長しにくくなります。

企業が人への投資を考えるうえで重要なのは、研修の回数や受講者数を増やすことだけではありません。学んだことを行動に移し、実践と振り返りを繰り返せる環境まで設計することです。

人を変えようとする前に、人が行動しやすい仕組みをつくる。

行動を具体化する。小さな役割を与える。考えるための型を共有する。振り返りとフィードバックの機会を設ける。「今までしたことのない行動をノーリスクで試せる場」を仕組みとして作っておくのです。

こうした日々の工夫の積み重ねが、自ら考え、学び、行動できる人材を育てます。

生成AI時代の「学び方のアップデート」とは、新しいツールを導入することだけではありません。本人の意識に期待する育成から、人が育つ行動を、組織の中に仕組みとして埋め込む育成へ。その転換が、人と組織の成長を支える第一歩になるのではないでしょうか。

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[2026.10.21公開]

日暮 薫 氏
著者日暮 薫 氏
株式会社ウチダ人材開発センタ
開発・運営統括 ラーニングデザイン部ラーニングデザイン課 課長
肩書/資格:CompTIA|Certified Technical Trainer / IT Operations Specialist / Network Infrastructure Professional
専門領域:SE・IT人材の育成、新入社員向けIT教育、IT・DXリテラシー教育、インストラクショナルデザインを活用した研修設計
経歴:大学卒業後、SI企業に入社し、システムエンジニアとして携帯電話の基地局・端末の開発、保守を担当。青年海外協力隊に参加すると、中米ジャマイカへ派遣、SEとして現地の地域大学にて講義を行う。その後、株式会社ウチダ人材開発センタに入社
・SE向け新入社員研修
・プログラミング研修、コンピューターハードウェア基礎、ネットワーク基礎、データベース研修
・CompTIA研修
等の講師を担当。DX導入に向けた、DX基礎研修・ITリテラシー研修、DXセミナーを主に担当中。

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