いま、働き方が再定義されようとしています。テレワークから出社回帰、働く場も多様化し人とのかかわり方も変わっていくなか、自分らしく、よりハッピーに働くにはどうしたら良いのでしょうか?連載コラム「働き方の再定義 ~なりたい自分になるためのヒント~」では、株式会社圓窓 代表取締役 澤円(さわ まどか)さんと一緒に「はたらく」について考えていきます。
こんにちは、澤です。
今回はいよいよ英語にまつわる最終回です。
第25回「英語にまつわるエトセトラ」で、英語を学ぶ意味について書かせてもらいました。
とにかく英語はやっておくに越したことはない、AI時代だからこそ自分が話す英語に意味が出てくるというのがボクの考えです。
そして前回は、「英語警察」との付き合い方について書きました。
今回はその続きとして、AIを相棒にして英語とどう付き合うか、という話をしてみようかと思います。

AIは優れた通訳・翻訳者になってくれます。
ボクも英語のドキュメントはどんどんAIに投げて、読む時のオーバーヘッドを減らしています。
単に翻訳するだけではなく、付随する情報を教えてくれたり、こちらの理解を深める問いかけをしてくれたりと、本当に気が利くパートナーになってくれます。
このパワーを使わない手はないなと思います。
だったら、自分の英語力をアップするための相棒として使い倒す、というのもいいんじゃないかなと思うわけです。
数年前までは、DeepLを使って「日本語を英語にしてもらう」「英語を日本語にしてもらう」という非常に単純な翻訳作業をしていました。
これはこれで大変に役に立ったのですが、英語力アップに貢献していたかというと、そうではなかった気がします。
チャット側の生成AIを使うと、単に翻訳してもらうだけではなくて、さらに学びを広げるやりとりが可能です。
ボク:「この件は一度持ち帰って検討します」を英語にして。
AI:Let me take this back to my team and get back to you.
ボク:consider は使わないの?
AI:使えますが、“I’ll consider it” はビジネスの場だと「前向きに検討する」寄りに聞こえます。日本語の「持ち帰る」が持っている「その場で決めない」というニュアンスは、“take this back” のほうが近いです。
ボク:じゃあ、ほぼ断るつもりの「検討します」なら?
AI:それならその場で結論を出すほうが親切です。英語圏では “I’ll take this back” は「必ず返事をする」という約束として受け取られるので、そのまま返事がないと、断ったのではなく「約束を守らなかった人」になります。
いかがでしょう。
DeepLにただ翻訳を頼んでいた時代なら、「持ち帰って検討します」が英語になって、そこで終わりでした。
いまは「なぜその単語なのか」「日本語の裏にある意図は、英語ではどう扱われるのか」まで聞くことができます。
英語の勉強というより、異文化コミュニケーションの授業ですよね。
日本語の「検討します」は、断りの作法として立派に機能しています。
でも英語では、同じ言葉が約束になる。
この差を知らずに、翻訳アプリで「正しい英語」に変換して送っていたら、丁寧に振る舞ったつもりで、信用を落としていたかもしれません。
英語そのものは間違っていないのに、です。
ここまではテキストでのやりとりですが、音声モードを使えば、同じことを声でやれます。
「持ち帰って検討します」と英語で言おうとして言葉に詰まる、その詰まり方まで含めて付き合ってくれる。
翻訳アプリは、ボクの代わりに話してくれます。
生成AIは、ボクが話す練習に付き合ってくれる。
この違いは、思っているより大きいとボクは考えています。
第25回で書いた「身体性」は、こうやって声に出した回数でしか積み上がらないからです。

ところで、ボクはマイクロソフト時代に多くのバイリンガルの社員の人に出会いました。
その中の一定数が「英語だと人格が変化する」というタイプだったことを覚えています。
普段はニコニコして温和な印象の人が、英語になると妙にキレキレになるというパターンの人もいましたし、いつもはちょっと近寄りがたい雰囲気の人が、英語の時はやわらかいトーンに変わる人もいました。
どうやら、使う言語によって振る舞いをスイッチする人がいるみたいなんですよね。
テキサス大学のラミレス=エスパルサさんたちが2006年に行った研究があって、スペイン語と英語のバイリンガルに、同じ性格検査を両方の言語で受けてもらったんですね。
そうしたら、英語で答えたときのほうが、外向性や協調性のスコアが高く出た。
参考:Ramírez-Esparza et al.(2006)「Do bilinguals have two personalities? A special case of cultural frame switching」
香港の研究(Chen & Bond, 2010)はもうちょっと踏み込んでいて、中国語と英語のバイリンガルは英語のときのほうが外向的・開放的に振る舞って、しかも相手が西洋人だとその傾向が強まるんだそうです。
参考:Chen & Bond(2010)「Two languages, two personalities? Examining language effects on the expression of personality in a bilingual context」
どうやら、言語の文法が人格を変えるというより、「その言語に紐づいた文化のスイッチ」が入る、ということみたいなんですよね。
英語を話すと、英語圏の振る舞い方がセットで呼び出される。
もうひとつ、ちょっと別の角度の話も。
母語じゃなくて外国語で考えると、損を怖がりすぎる傾向が弱まって、感情に引っ張られにくくなる。「外国語効果」と呼ばれているやつです。
シカゴ大学のケイサーさんたちが2012年に報告してから、いろんな追試が行われています。
参考:Keysar et al.(2012)「The Foreign-Language Effect: Thinking in a Foreign Tongue Reduces Decision Biases」
「英語だと妙にズバッと言える」という感覚、どうやら気のせいじゃないみたいですね。
多言語話者1,000人以上に聞いた調査だと、およそ3人に2人が「言語を切り替えると自分が違う人間に感じる」と答えているそうです。
参考:Dewaele(2016)「Why do so many bi- and multilinguals feel different when switching languages?」
変わる人のほうが、むしろ多数派なんですね。
勝手にスイッチが入るものなら、自分でスイッチを入れにいってもいいんじゃないかなと。
これ、ちょっと意図的に試してみても面白いかも?って思うんですよね。
英語を話すときは、いつもよりも解放的なキャラになってみるとか。
あるいは、英語の時は哲学者の如く思慮深い雰囲気にしてみるとか。
自分にもう一つの面を作り出すために、英語を話すことにチャレンジしてみるのも面白いかもしれません。
ボク自身は、「伝えたいことを言葉にする」ということを生業にしているので、あまりキャラそのものに変化はないと思ってます。
ただ、英語だと思ったことの4割程度しか伝えられてないもどかしさを感じたりしますけどね。
もしかしたら、キャラ変をすることによってブレイクスルーすることもあるのかも??
ちょっと考えてみる余地はありそうですね。
「キャラが変わる・変わらない」は、どっちがいいという話ではないと思っています。
ただ、これは実際にやってみないとわからない。
洋服と同じで、着てみないと似合うかどうかはわからないんですよね。
英語というのは、「もう一人の自分」が出てくるかどうかを試せる、数少ない試着室なんじゃないかとボクは思うのです。
そして今は、その試着に何度でも付き合ってくれる相棒がいます。
英語警察に見つかる心配もありません。
ボクと一緒に、英語でもう一人の自分を試着してみるのはいかがでしょう。

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