労使双方の立場から考える ~テレワークの労働時間管理はどうしている?どうしたらいい?~

マネジメント テレワーク

急速に普及したテレワーク時の適切な「勤怠管理」や「労働時間管理」でお悩みの企業も多いのではないでしょうか?
この記事では、主に厚生労働省による調査結果とガイドラインを基に、テレワークにおける労働時間制度、労働時間管理に関する意識と実態、留意点について解説いたします。

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テレワークはオフィス勤務に比べて柔軟な働き方のため、労使ともにさまざまなメリットがある一方、課題も指摘されている。その1つに、労働時間管理がある。厚生労働省の委託調査によると、テレワークの課題として、労使双方がその難しさを挙げている。

  • そもそもテレワークにはどのような労働時間制度が採用されているのだろうか
  • テレワークにおいて、勤怠管理はどのように行われているのだろうか
  • そして、テレワークならではの留意点とはどのようなものなのだろうか

主に厚生労働省による調査結果とガイドラインを基に、テレワークにおける労働時間制度、労働時間管理に関する意識と実態、留意点について解説する。

テレワーク時の労働時間に関する意識

ここでは、厚生労働省による委託調査「テレワークの労務管理等に関する実態調査」の結果から、テレワーク時の労働時間に関する労使の意識をみていこう。*1
調査対象は国内の企業2万社で、有効回答数は企業3,788件、従業員4,184件である。

労働時間に関する労使の意識

まず、在宅勤務の従業員がテレワーク時の課題として挙げている労働時間関係の事項(複数回答)は、「オフィス勤務時よりも勤怠管理や業務の進捗確認が難しい」(15.1%)、「長時間労働になりやすい」(10.6%)、「時間管理が難しい」(9.9%)である。

一方、企業側が感じている課題としては、「労働時間の申請が適性かどうかの確認が難しい」(34.2%)「勤怠管理が難しい」(31.8%)、「労働時間の適正な申告が徹底されていない」(6.1%)、「長時間労働になることが増えている」(2.8%)、「時間外労働等が増加し、割増賃金の支払いが増えている」と多岐にわたる。

以上のことから、労働時間の管理に関して悩みを抱えている従業員が一定の割合存在すること、従業員にもまして企業側がこの問題に対してより危機感を抱いていることがみてとれる。

そうした状況は何に起因するものなのだろうか。
それを探るために、テレワークに導入している労働時間制度からみていこう。

テレワーク時の労働時間制度

テレワークは通常、以下の3つの形態に分類される。*2

在宅勤務:労働者の自宅で業務を行う
サテライトオフィス勤務:メインのオフィス以外の決められた場所で業務を行う
モバイル勤務:ノートPCやスマートフォン・携帯電話などを活用して、 臨機応変に選択した場所で業務を行う形態

こうした形態ごとにテレワークに採用されている労働時間制度の割合をみていこう。

企業が採用している労働時間制度

以下の図1は、テレワーク対象者向けに企業が採用している労働時間制度の割合を表している。*1

図1 テレワーク対象者の労働時間制度
(出所:厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」(第4回)テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)」[2020年11月16日] p.21)

図1をみると、「通常の労働時間管理」の割合が圧倒的に高いことがわかる。
このことは、従来のオフィス勤務とは異なる働き方であるテレワークに、通常の労働時間管理制度を取り入れているところに難しさがあることを示唆しているとも受け取れる。

テレーク時の労働時間制度の考え方

厚生労働省によるテレワークガイドライン(改訂版)をもとに、テレワーク時の労働時間制度についてより詳しくみていこう。*3

ポイントは、労働基準法に定められた全ての労働時間制度をテレワークに適用することができるという点だ。
したがって、テレワークを導入する前から採用している労働時間制度を維持したまま、テレワークを行うことができ、実際にそうしている企業が多いのは図1のとおりである。

ただし、通常の労働時間制度と変形労働時間制(労働時間を週単位・月単位・年単位で調整する制度 *4)では、始業・終業の時刻や所定労働時間をあらかじめ定める必要があるが、必ずしも一律の時間に労働する必要がないときには、所定労働時間は維持する一方、テレワークを行う従業員ごとに始業・終業の時刻を定める自由を認めることもできる。

その点、フレックスタイム制は労働者が始業・終業の時刻を自由に決定することができ、テレワークになじみやすい制度だが、図1をみると導入率は30%台前半で高いとはいえない。

事業場外みなし労働時間制は、労働者が事業所以外で業務に従事した場合、労働時間を算定することが難しいときに適用される制度で、使用者の具体的な指揮監督が及ばない事業所外で業務に従事する場合に活用できる制度である。 この制度を採用すれば、一定程度自由な働き方ができるため、柔軟にテレワークを行うことが可能になるが、図1をみると採用率は10%台前半に留まっている。

裁量労働制と高度プロフェッショナル制度は、業務遂行の方法、時間などを労働者の自由な選択に委ねることができる制度である。これらの制度の対象労働者にテレワークの実施を認めれば、労働場所も労働者の自由な選択に委ねることができる。

以上のように、それぞれの労働時間制度には独自の特徴がある。それらを理解した上で採用する制度を選択することが望まれる。

テレワーク時の勤怠管理の方法

では、テレワーク時の労働時間管理はどのように行われているのだろうか。

次の図2は在宅勤務のテレワーク実施者に対する勤怠管理の方法を、労働時間制度別に示したものである。*1

図2 労働時間制度別テレワーク(在宅勤務)実施者に対する勤怠管理
(出所:厚生労働省「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」(第4回)テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)」[2020年11月16日] p.24)

圧倒的に多く導入されている通常の労働時間制度にフォーカスすると、「上長等に対してメールによる報告を行う」が最も割合が高く40.7%、次いで「電子ファイルの出勤簿などに自己申告で記入する」が34.8%となっている。 つまり、従業員の自己申告がベースなのだ。

上述のとおり、企業側がテレワーク時の労働時間管理上の課題と考えている事項のトップ3は、「労働時間の申請が適正かどうかの確認が難しい」「勤怠管理が難しい」「労働時間の適正な申告が徹底されていない」だったが、図2から、企業側が感じているこのような課題は、こうした自己申告ベースの勤怠管理法と関連していることがみてとれる。

ある調査によると、テレワークに対する不安で、上司と部下とで最も差があった項目は「周りがさぼっているのではないか」で、上司が21.0%なのに対して部下は5.1%だった。*5
また、部下がテレワークで不安に感じることのトップは「自分がさぼっていると周りに思われている」で25.5%に上る。

これらを考え合わせると、通常の労働時間制度をそのまま採用し、勤怠管理が自己申告ベースであることが、上司と部下の信頼関係にまで影響を及ぼしかねない状況がみてとれる。

労働時間管理の留意点

最後に、上述のテレワークガイドラインをもとに、テレワークならではの労働時間管理上の留意点についてみていこう。

労働時間の把握

労働時間に関しては、テレワークではあっても厚生労働省が定めている「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」*6 を踏まえる必要がある。*3

客観的な記録、例えばパソコンなどテレワークに使用する情報通信機器の使用時間の記録やサテライトオフィスへの入退場の記録などで労働時間を把握する方法もある。
もし、このような記録を使用することが難しい場合には、使用者が従業員に対して、適正に自己申告を行うことについて十分な説明をする必要がある。

パソコンの使用状況など客観的な事実と、自己申告による始業・終業時刻に著しい乖離があることがわかった場合には、所要の労働時間を修正する必要がある。

ただし、使用者は、例えば自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設けるなど、従業員が適正に労働時間を申告することを阻害してはならない。

中抜け時間

中抜け時間(一定程度労働者が業務から離れる時間)は、労働基準法上、使用者は把握しても、把握しないで始業・終業の時刻のみを把握してもどちらでもいいことになっている。*3

したがって、中抜け時間の取り扱いは次の2点に分かれる。

  1. 把握する場合:休憩時間として取り扱い、終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇とする。把握方法としては、例えば1日の終業時に従業員による報告を義務づけるなどが考えられる
  2. 把握しない場合:始業と終業の間の時間は、休憩時間を除いて労働時間とする

勤務時間中にテレワークを行う際の移動時間

勤務時間の一部をテレワークにする場合、就業場所間の移動時間は、従業員にテレワークあるいはオフィスワークの選択の自由が保障されていれば、休憩時間として取り扱う。*3

一方、例えば、テレワーク中の従業員に、使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへ
の出勤を求めるなど、業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、従業員がその選択の自由を保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当する。

休憩時間の取り扱い

テレワークを行う従業員に対しては、労使協定によって、休憩時間の一斉付与の原則を適用除外とすることができる。*3 したがって、労使協定を結べば、従業員は個々人で都合のいい時間に休憩時間を設けることができることになっている。

時間外・休日労働の労働時間管理

テレワークの場合も、使用者が時間外・休日労働をさせる場合には、三六協定の締結、届出や割増賃金の支払が必要となる。*3

労働基準法では、「法定労働時間」(原則、1日8時間・1週40時間以内)を超えて従業員に時間外労働(残業)をさせる場合には、労働基準法第36条に基づく労使協定の締結と労働基準監督署への届出が必要だと定められている。 この協定が三六協定である。

深夜に労働させる場合にも割増賃金の支払が必要なのは通常の時間管理制度と同様だ。

テレワークにおける長時間労働を防ぐためには次のような方法がある。

  • メール送付を抑制したり、システムへのアクセスに制限をかけたりする
  • 時間外・休日・所定外深夜労働についての手続き:労使の合意により、時間外等の労働が可能な時間帯や時間数をあらかじめ使用者が設定する
  • 長時間労働などを行う従業員に注意喚起をする

おわりに

テレワークはコロナ禍で急速に普及しただけに、課題の多くはまだ解決に至っていない。その中でも特に労働時間管理は給与に直結するシビアな問題だ。

意識調査の結果から、テレワーク時の労働時間管理が労使間の信頼関係にまで影響を及ぼす可能性が明らかになっている。

テレワークを行う場合、個々の従業員にとって適正な労働制度はどれか、勤怠管理はどうするか、労働時間管理において疎かにしてはならないことはなにかをそれぞれ押さえ、よりよい実施方法を模索する必要があるだろう。


[2022.10.11公開]

著者横内 美保子
博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。

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