攻めるオフィス移転の進め方

攻めるオフィス移転の進め方
競争激化が進む現在、企業は様々な取組みを通して、その競争力を上げようとしています。
コスト削減、生産性の向上、イノベーション等様々なテーマが総務部の業務にも求められています。ここでは、オフィス移転をその絶好にチャンスと捉え、攻める(競争力を高める)オフィス移転の進め方をご紹介します。

一言でオフィス移転と言っても、その業務は非常に膨大且つ多岐に渡ります。本編では、移転の計画、ビル選定や業者選定と言った「1. 移転の検討」、設計や工事準備といった実際に移転準備を進める「2. 移転の実施」、「3. 移転後の運用」と3つに分けてご案内します。それぞれを順を追ってご説明していきましょう。

1. オフィス移転の検討

オフィス移転による投資対効果のシミュレーション


オフィス移転の計画の有無にかかわらず、自社のオフィス(事務所)がどの様な状況にあるのか、コストダウンの可能性はどの位あるかといったことを認識しておくことは、総務担当者にとっては重要なことです。

自社のオフィス面積が、同業企業や同規模企業といったベンチマーク(世間値)と比較して適正なのか現在のビル賃料は市場単価と比較してどのくらい削減余地があるのか、もし移転を行うとしたら費用(イニシャルコスト)はどの程度かかるのか、これら3点を評価しておくことによってオフィス移転による投資対効果をシミュレーションすることができます。自社の現状オフィスの評価を行うことにより、適切な時期を見計らって経営層へオフィス移転の計画を具申する、「攻めのオフィス移転」を企画することが可能となります。

また、一般的にオフィス移転の6カ月前には、現オフィスの解約予告を出します。契約内容や、現オフィスの原状回復工事の進め方など、必要な手続きを確認しましょう。
オフィス移転による投資対効果のシミュレーション

移転先ビルの選定


オフィスコスト削減や生産性向上に大きな影響を与える移転先ビルの選定。賃料や立地条件だけでなく、移転先の面積(スペース)やオフィス機能、設備の比較など、移転先の物件が適正なものかを比較・検討していくことが求められます。攻めのオフィス移転を行うには、以下の表に示す観点を踏まえてビル選定を行うことが重要です。
 ポイント
1) 適正面積の検証現状オフィスの面積を基準に増員計画に合わせて按分計算するのではなく、まず、現在のオフィスが適正な面積なのかを検証することが重要。同規模や同業種企業の1 人当たり面積と比較した上で、適正な1 人当たり面積を設定。その1 人当たり面積数値をベースに増員計画を踏まえた移転先オフィスの必要面積を設定する。
2) 不動産仲介会社への依頼事項不動産仲介会社へ以下の条件を設定して物件の紹介を依頼する:
立地エリア条件、必要面積、賃料上限、駐車場の条件、ビルの仕様・設備(天井高、OA フロアの有無、床荷重、電気容量、セキュリティの有無等)、新耐震設計ビルであること。
3) オフィスフロアのチェックポイント主なチェックポイントは次の通り:
・フロア形状:正方形より長方形の方が一般的にレイアウトしやすい。異形フロアはレイアウト効率が下がる。
・フロア内の柱の有無:デッドスペースを生みやすいオフィスは避ける。
・共用部への出入り口:複数ある方が望ましい。
・フロアの方角:西側・南側の窓はブラインド等を終始下ろすため、眺望の良しあしの影響は少ない。

移転先ビルとの条件交渉


移転先ビルとの条件交渉の際に、次の2つの観点を加えると、さらにコストダウンに貢献できます。

1. 賃料とフリーレント
賃料・共益費の金額交渉と共に、フリーレントの交渉の重要性が高まってきています。また、共益費については、特に契約から入居まで期間が長く空く場合など、交渉次第では、入居工事着工時から請求対象とするなどの条件が得られるビルもあります。

2. 工事区分の交渉
B工事(テナント負担のビル指定業者工事)とC工事(テナント負担のテナント指定業者工事)の工事区分を確認する上でのポイントは、間仕切り等内装工事と(二次側)電気コンセント工事です。この2つの工事項目は通常B工事となっていることが多いのですが、交渉次第ではC工事へ変更することができます。テナントで業者選定ができるC工事にすることによって、競争原理が働き、移転のイニシャルコストを削減出来る可能性が高まります。

移転先ビルとの条件交渉

パートナー(担当業者)選定


オフィス移転のパートナーとして、ワークスタイルやオフィス全般に対してノウハウ・実績を豊富に持つオフィス家具メーカーや、デザイン性が高いオフィスを作ることへ強みを持つ設計事務所、IT系工事会社やプロジェクトマネジメント会社、工事全般を一括で請負うオフィスゼネコン型企業など様々な種類の企業があります。自社のオフィス移転の環境や背景、目的に応じて、必要性、重要性の高い業務を得意分野とするパートナーを選定することが重要になってきます。

昨今、多くの企業から、社内コミュニケーションの活性化や業務スピードの向上、イノベーションの創造などを支援するオフィス作りが求められることに鑑みると、オフィス作り専門のパートナーが有するワークスタイルやオフィス構築のノウハウは、ますます重要視されてきているといえます。

パートナー選定において、各社プレゼンテーションを行うのが一般的ですが、その際、各社の提案の良しあしとともに、担当者(チーム)の採用面接という観点で選考することをお勧めします。技術やコスト評価とともに、期間中その担当者(チーム)と一緒に働くイメージが湧くかどうかという基準で選考するという観点がパートナー選定のポイントです。

パートナー(担当業者)選定

2.オフィス移転の実施


オフィス移転は、おおむね以下の表に示すプロセスに基づいて実施されます。
企画立案・社内の体制設定
・業務内容整理
・スケジュール策定
・概算予算策定
調査分析・現状実態の調査・分析
  ワークスタイル
  システム構成
  文書量
・将来構想の調査
・オフィス利用状況調査・分析
・オフィスコスト調査・分析
計画・課題の優先順位付け
・基本計画の策定
  オフィスコンセプト
  空間環境設計基準
  情報環境設計基準
  オフィス運用基準
  文書管理基準
設計・レイアウト設計
・インテリア設計
・情報インフラ設計
・運用ルール計画
調達
工事
・概算~実施コスト管理
・調達業者選定・発注
・見積金額査定・交渉
・移転工事工程策定・管理
・移転準備説明会開催
実施・工事監理
・工程・品質管理
・変更コスト管理
・検収
・移転立ち会い
・残課題・追加対応

企画立案


プロジェクト推進にあたっては、初動が成否を分けるといっても過言ではありません。オフィス移転プロジェクトの「発射角」ともいうべき今後の方向性を決める社内体制、業務内容、スケジュール、予算のフレームを策定します。

社内体制とは、プロジェクトオーナーを誰にするか、社内ステークホルダーの協力をどのように得るか、検討ワーキングチームをどのように編成するかなど、プロジェクト体制を設定することです。業務内容の整理とは、プロジェクト全体の業務をすべて洗い出し、その洗い出した業務に関して責任分担を明らかにし、プロジェクトにおける「何を」と「誰が」をリスト化するのです。

これらに基づいて、プロジェクトのロードマップとなるマスタースケジュールを作成し、クリティカルポイントを明確にし、プロジェクトゴールまでのプロセスをできる限り可視化することが大切です。

概算予算策定では、構築金額から原状回復工事までを含めたオフィス移転プロジェクトの総予算を策定します。
プロジェクトのマスタースケジュール

調査分析


調査分析では、現状の実態調査と将来構想調査の二つの側面から調査・分析を行います。

現状の実態調査では、各部門の業務内容とオフィスの問題点の調査、文書量や運用実態の調査、会議室や倉庫、リフレッシュコーナー等施設の利用実態調査、現状オフィスコストの実態調査を行います。特に会議室に関しては、昨今、相談を受ける企業のほぼすべてで「会議室が不足している」という声を聞きますが、その利用用途や人数、空予約の有無、予約時間と利用時間の乖かい離の実態を調査・分析することにより、運用次第では決して不足するわけではないということがわかります。このような調査・分析を踏まえることにより、新オフィスでは、過剰な会議室スペースへの投資を避け、適正な数や大きさの会議室設定が可能になります。

将来構想調査では、企業や組織の将来像、目指す働き方像、そのための投資計画、また移転の背景や新オフィスへの期待などを、主に経営層へのヒアリングによって調査します。
会議室イメージ

計画


現状の実態調査を受け、現オフィスにおける課題の整理とそのデータ整備を行い、将来構想調査に基づき新オフィスの「あるべき姿」をまとめ、新オフィスの設計要件に取りまとめていきます
パートナー選定の項で少し触れましたが、競争力強化を考える多くの企業がオフィスに求める要素として以下のテーマを挙げています。

1. 社内コミュニケーションの活性化
部門内コミュニケーションやチーム力の強化とともに、部門間コミュニケーション活性化、部門間連携の強化が強く望まれています。それぞれの部門の業務内容の見える化施策や、社員同士の顔と名前が一致する範囲を広げる施策が、オフィス構築の際に常に重要なテーマとして設定されます。

2. 業務スピードの向上
ICTの活用による情報共有の精度とスピードアップが強く求められています。特に、会議の効率化やオープンなミーティングコーナーを使ったクイックミーティングの重要性がますます高まっています。

3. イノベーションを生み出す仕掛け
社内だけでなく社外のパートナー等さまざまな人と接点を生む仕掛けや、「オープンイノベーション」に代表される新しいコミュニケーションの場の重要性が増しています。

4. 採用力強化へ寄与
優秀な社員を採用することは、ますます競争が激しくなっています。社員や製品、社会貢献活動、社歴など、企業の魅力を訴求するメディアとしてのオフィスの仕掛け(ブランディング)が求められています。

5. コスト削減と社会貢献
省エネはますます重要視されています。業務効率に悪影響を与えない節電施策や、間伐材のオフィス活用など、企業の環境配慮と社会貢献活動を体現するオフィスも求められています。
オフィスイメージ

設計


計画時に策定したオフィステーマ、設計要件を、実際のオフィス空間へとデザインしていきます。
上記のテーマが求められている現在のオフィスデザインは、変更コストがかからないインテリアデザイン、可動性・可変性の高い家具、ICTツールと連携が取られた設しつらえ、木材活用が大きな潮流となっています。

● 組織や事業内容の変動に柔軟に対応できるように、建築工事で間仕切った個室の設えから、大きさや位置が可変なゆるやかな仕切りを用いた例レイアウトが主流に。

● 電話やネットワークの無線化の普及により、家具は好きな場所へ自由に動かして利用できるものや、使用用途により組み合わせを変え形状を変えて多目的に使える可変性の高いものがトレンド。

● 創造性と効率性を追求したコミュニケーション空間となる会議室では、ホワイトボードや大型ディスプレイ、プロジェクターなどの情報共有を行うツールは、今や必須アイテム。そこに各社固有のニーズに基づいて遠隔会議システムや電子ホワイトボードシステム、会議室予約管理システム等さまざまな会議ツールが加えられた設えとなってきている。

● オフィスの内装や家具には、地域材の利用による森林の整備・保全、地球温暖化防止および循環型社会形成への貢献、さらに、その肌触りのぬくもり感や素材の魅力から、木材活用が活発になっている。

このように、オフィスデザインの潮流は、組織の成長や変化に柔軟に対応できるものへ、働く社員が自由に工夫して利用できるようICTとの連携でより機能的に、そして地球や人に優しいデザインへとなっています。
オフィスイメージ

調達・工事


攻めのオフィス移転において、コスト削減は重要な観点です。一言でコスト削減といっても、移転の段階によって、それぞれ違う力点でコスト削減のアプローチをすることが効果的です。

● 計画および(基本)設計段階(プロジェクト前半)
「ランニングコスト削減」:人員計画や将来の組織の統廃合を想定したフロア構成やフロア内ゾーニング設計により、組織変更や人員の増減に対応できるレイアウト設計を行い、ランニングコスト削減をはかります。

●(実施)設計および調達段階(プロジェクト後半)
「イニシャルコスト削減」:B工事を極力少なくした設計、適切な納期と工程による工事コスト削減、競争原理を働かせた購入によってイニシャルコスト削減をはかります。

オフィス移転期間全般を通じて、適切な品質のものを設計・選定し、適切なスケジュール管理を行うことによって、適切なコストで契約するという視点が大切です。

実施


入居工事期間中や移転直前は、様々な手続きや引っ越しの準備と同時に、社員への事前説明や調整の佳境を迎えます。工事関係の作業は可能な限りオフィス移転業務パートナーに任せ、総務部メンバーは社員対応に注力するという役割分担が望ましいでしょう。また、移転直後も同様に、総務部メンバーは社員の反応にクイックアクションで対応することに注力することが重要です。

特に移転直後の社員の声への対応はとても重要で、即座に反応、回答、解決することにより、新オフィスへの社員の評価や、新オフィスで導入した施策の浸透度合いが格段に高まります。オフィス移転を介しての社員と総務部メンバーのコミュニケーション機会と捉え、積極的なコミュニケーションにより新オフィスで導入した施策を周知・浸透させることが大切です。
オフィス工事風景

オフィス移転を活用した組織力強化の機会


攻めのオフィス移転では、オフィス移転を、組織の目指す方向を社員が共有できるような組織創りの絶好の機会と捉えています。移転の意図や目的、新しいオフィスでの組織像や期待される「働き方」を、オフィス移転の前に社員と具体的に共有することにより、強い組織へステージアップする節目のイベントとすることができます。具体的には、以下に示す3つのテーマによる社内プロモーション施策をオフィス移転期間中に実施するとよいでしょう。

1.目的・意図の共有
オフィス移転の目的や意味合いを、社員が具体的に共有・共感した上での、新しいオフィスへの入居。

2.一体感
自社の歴史や魅力を振り返り、新オフィスで目指すビジョンや目標・そのための働き方を共有。

3.参画感
オフィス(職場)創りを社員参加型のイベントを設け、「私たちで作ったオフィス」という意識付け。

※オフィス移転・構築プロジェクトの期間を利用し、社員の意識や関心を高めるプロモーションを行います。
ワークショップイメージ

3.オフィス移転後の運用

引越しが終わり移転が完了すると、オフィス移転プロジェクトは終了しますが、新オフィスの運営業務がスタートします。 攻めのオフィス移転では、移転後も企業環境に合わせて進化・成長し続けるオフィス運営を行います。

導入したツールや施策の評価、改善策の策定


コンセプトの実現度合いやコスト貢献度合いを、定期的に定量・定性の両面から評価・検証します
半年に一回ほど、定期的に、構築したオフィスの運用面に関する実情や、導入ツールや実施施策の評価・検証を行います。そこで確認された不具合について、オフィス環境面・ICT面・運用面それぞれの観点から改善策の検討を行い、改善を実施します。この定期的な調査・改善策実施のサイクルをしっかりと行うことにより、「オフィスが想定通りに使われていない」ことの改善や「移転の効果を把握したい」「計画的にオフィス改善を行いたい」という目的を実現します。
また、移転後も進化・成長し続けるオフィス運用を行うためには、「レイアウト図面や各種オフィスデータの最新版管理」や「資産管理」を効率的に行う仕組みも大切となります。本来業務への集中や業務効率向上の面から、専門家へのアウトソーシングや各種ツールの導入を視野に入れてもよいかもしれません。
攻めのオフィス移転の実現に向けて、移転の検討、移転の実施、移転後の運用と、それぞれのポイントを説明しました。オフィスは、社員の創造力の発揮、社内外のコミュニケーションの活性化やコラボレーションの強化、イノベーションの場として企業の競争力の源泉そのものであり、その(移転等)構築プロセスにおいても競争力を高めることに貢献できるものなのです。

内田洋行では、オフィス移転・リニューアルを支援する各種サービスをご提供しております。また、ウチダが手がけたプロジェクトの様子もご覧ください。

参考資料

よろしければチェックリストをご活用ください


オフィス移転のご担当者様向け、「移転に関わる庶務業務のチェックリスト」「移転に伴う関係官庁への届出リストPDF」もご活用ください。

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