2021年7月14日、第154回オフィス移転セミナーをライブ配信形式で開催しました。
プログラム2では、マイクロソフト社を経て、佐賀県の最高情報統括監(CIO)として職員4,000人を対象にしたテレワークの導入に成功された後、総務省委嘱テレワークマネージャー事業などで様々な業種のテレワーク導入を支援されているキャリアシフト株式会社 代表取締役の森本登志男様を特別講師に迎え、「サテライトオフィスから広がる新しい働き方の未来形」というテーマでご講演いただきました。
これまで200を超える企業や自治体のテレワーク導入を支援されてきた森本様。そのご経験から現在のテレワーク事情、そしてサテライトオフィスを取り巻く状況の変化についてご紹介くださいました。
新型コロナ感染の拡大によって世の中の構造、行動、消費などが徐々に変わり、好むと好まざるにかかわらず、テレワークをはじめ、デジタルを活用した今までとは違う働き方、商売の仕方を一所懸命考えなければいけない状況が続いています。実際のところ、政策だから、出勤率を減らさなければならないからと、渋々テレワークを始めたという企業もあるでしょう。
しかし、社会全体のビジネスの流れが少しずつ動いている中で、テレワークは感染対策としてだけでなく、業務全体の効率化、生産性の向上、ライフワークバランス向上による社員のモチベーションアップなど、会社にとっても、働く人にとってもメリットがあるという理解が広がり、今後は会社の経営戦略としてどう考えていくかが重要となります。
コロナ禍前にテレワークを導入して成果を上げられた企業、自治体の事例を3つご紹介します。
[事例1]現場で働く社員全員がテレワークを始めたことで、売り上げ2倍、求人への応募者が150倍になった土木工事会社土木工事会社はテレワークに不向きと思われている業種のひとつですが、この会社は現場の職人を含め、約30人の社員全員がテレワークをしています。その内容は、現場仕事の前後に必ず会社に立ち寄っていたのを止めて直行・直帰とし、会社で行なっていた1日30分程度の報告や記録作業をノートパソコンなどで現場や自宅で行うようにしました。そして移動が減って得られた時間とガソリン代などのコストを、社員の資格取得支援と資格手当に回したのです。その結果、社内に有資格者が増えて、高度な仕事の受注や利益率のアップなどにつながり売り上げが2倍に。さらに在宅勤務可、資格取得支援、資格手当支給と記載して求人募集を行った結果、新卒応募者が150倍へと、テレワークによって好循環を生み出しました。
ここで大事なところは、1日約30分、全業務の5%程度の作業に目を付けたことです。そこにメスを入れただけで、付随する様々な無駄が省けました。現在は報告や記録の作業だけでなく、現場での業務そのものにも、デジタルを使って業務効率を向上させてもいます。現場で働く人が、丸一日在宅勤務をしなければいけないというイメージで考えていては何も動き始めないが、この事例のように発想を変えてみることが大事ということです。
この会社は社員約40人の商社で、経理担当は育児と仕事を両立されている女性1人です。ある日の朝、急にお子さんが熱を出して困ったことを機に、締め日など月に2日ある絶対に休めない日には、実家のお母さんに待機してもらうというリスクヘッジを自助努力で行っていたといいます。
経理は大事な業務ですから、総務部長も高い問題意識を持って私の所へ相談に見えました。そこで、私は経理の仕事の棚卸しと分類を実施。最終的に、ノートパソコンとポケットWi-Fi、クラウド版の会計ソフト、インターネットバンキングの4つを導入しただけで、約97%の仕事が在宅でできるようになりました。こうした環境を整えたら安心感が全く違います。育児だけでなく、災害で出勤できないという場合でも自宅で仕事を継続できます。
その後、緊急事態宣言が出た際、会社の中でも在宅勤務がしづらいと考えられていた経理でテレワークを導入した経験が生かされ、社員の大多数を占める営業の社員もスムーズに在宅勤務で業務を継続できたといいます。 テレワークの取り組みは、それを最も必要としている人たった一人からはじめるのでもよく、必ずしも最初から全員スタートでなくても構いません。
[事例3]県庁を出るとメールチェックもできない状態から、佐賀県庁職員4000人のテレワーク導入を実施佐賀県庁は2014年に4,000人全員で在宅勤務を含めたテレワークをできる環境を作りました。その結果、常態化していた「一度戻って調べてからまた来ます」といった手戻りが導入初年度から半減する業務も発生。庁外での勤務時に、iPadで県庁のサーバーにアクセスしたり、Web経由でわかる人に聞いたりすることによって、その場で解決する数が圧倒的に増えたのです。
また、テレワークの導入まではほとんどの職員が東京出張の帰りに、遅い時間でも必ず県庁に戻ってメールチェックをしていました。コロナ前は1,700ある自治体のうち外出先からメールを確認できるところは1割なかったと思います。それがテレワークによって可能になると、交通機関での移動中や、アポとアポの間のスキマ時間などの活用が300%増になり、復命書(民間企業でいう報告書)を書く時間は半減。直帰率も増えました。
在宅勤務も、7人に1人が月に1回行っています。育児中の人が実施する場合も多いですが、職員の数のボリュームゾーンとなっている40代後半から50代の高齢者と同居する男性職員の4人に1人は、家族の介護のために月に1度は在宅勤務制度を利用しています。1日中介護をする際は普通に有給を取り、通院のサポートなど短時間で済む場合は在宅勤務をするといったように、フレキシブルな使い方を考えていただきたいと思います。
在宅勤務などテレワークを組織に根付かせるためには、情報インフラと人事制度を整えることは不可欠ですが、実はいちばん大事なのは組織風土の醸成です。コロナ対策や災害時の業務継続といった非常時以外で在宅勤務を選択する理由の1位は家族の病気やケガへの対応です。子どもは予告なく突然、発熱します。それなのに当日申請を認めない在宅勤務制度では、この最大の在宅勤務理由に対応できず、まさに絵に描いた餅です。育児や介護をしながら働いてもらいたいという思いがあるなら、どうすればカジュアルに在宅勤務をしてもらえるかを考えることが大切です。
私は200以上の組織のテレワーク導入をサポートしてきましたが、すべてがうまくいったわけではありません。テレワークがやりにくい業種というのは確実に存在します。ですが、導入できるかできないかを分ける要因は業種ではなく、「導入に対する覚悟」があるかないかです。現場の反応、高い投資コスト、従来の習慣には全く合わない新しいルール、こういった超えるべき壁を前にした時、「だったら、もうやめます」と諦めてしまわない固い意志が経営者にあるかないかが分かれ目です。
次のアポイントなどに時間が空いた際、一旦会社に戻らずに近くのサテライトオフィスで仕事をするという使い方はコロナ前からありました。その場合2時間以内の利用が多いですが、郊外のサテライトオフィスでは違う利用のされ方もしていると聞きます。
校外のサテライトオフィスの主な利用者は子育て世代の女性で、都心の会社に通勤せずに、自宅に近いサテライトオフィスで1日6時間以上働いているということです。これにより通勤時間が削減され、お迎え前のハラハラを抱えながらの勤務も減って仕事に集中してもらえる。日々の業務効率の向上に加え、家庭と仕事のバランスがすごくよくなることで、離職防止にもつながるという効果を狙って、雇用する会社もこうしたサテライトオフィスと契約して社員に提供しているのだと思われます。
また奈良県三郷町は「ふるさとテレワーク推進事業」の予算を使って、駅前の駐輪場を回収して2016年にサテライトオフィスをオープンしました。地元から大阪に通勤している人の利用を想定していたそうですが、実際は大阪の企業の奈良県担当の営業がキーステーションとして利用しているといいます。
またとある会社は、緊急事態宣言後に週に1日だけ出社して、残りの日は在宅勤務という体制で仕事が充分に回り始めたことを受け、昨年の夏に長年オフィスを構えていた外苑前から池尻大橋に移転。坪単価が大きく下がり、また床面積も縮小したことから大幅なコスト削減になり、また社員の多くが沿線に住んでいることから通勤の負担の軽減にもなっています。
私が注目しているのは、在宅勤務か会社かの二者択一ではなく、第3の選択肢としてサテライトオフィスの活用がこれからどのような形になっていくかということです。アメリカ企業の調査ではコワーキングスペースの利用者がどんどん増えています。日本にもその潮流が来ているのは確かです。
昨年度の第3次補正予算で、国はサテライトオフィスの開設を含むテレワークを推進する自治体向けに総額100億円の予算をつけました。これからは地方にもサテライトオフィスが広がることでしょう。すでに和歌山県・白浜町や徳島県・神山町などの成功例もあります。民間と自治体の施設がハイブリッドで絡み合うような形になって、ワーケーションも進むでしょう。
在宅勤務メインで出勤は月に1、2回でよいなら、東京から出て自然環境がよく物価が安いところで暮らすという選択もできます。週末に都心から実家に介護に帰っていた人ならば、実家で在宅ワークをして、月に数回、出社するというように逆転もできます。その時々で変化するライフステージの中で、働き方にフレキシビリティをもたらすものが、テレワークであり、サテライトオフィスです。その部分を雇用する側の方々には、特に考えていただきたいと思います。
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