フリーアドレス2.0 の実際 - フリーアドレス2.0 成功のポイント -

株式会社内田洋行新川第2オフィスの移転をケーススタディとして、実際にフリーアドレスを導入するときのポイントを、整理します。その日の仕事内容に適した場所を自らが選んで業務にあたるアクティブ・コモンズは、さまざまなシーンで課題を解決しています。

※内田洋行では、フリーアドレスをより生産性が高く躍動的な組織を実現するための装置と捉え、「アクティブ・コモンズ」(アクティビティ=社員一人ひとりの行動を支える共通基盤)と呼んでいます。

導入目的をはっきりさせる

移転の有無にかかわらず、自社のオフィス面積が、同規模の企業のベンチマークと比較して適正なのか、業務スピードを向上するためのイニシャルコストはどの程度かかるのか、そして維持運営にかかるコストはどのくらいになるのかを評価しておくことは、総務担当者にとっては重要です。それによって、投資対効果をシミュレーションすることができます。

【国内企業のベンチマーク】

■1人あたりの執務スペース
固定席 15.7 ㎡
フリーアドレス 10.2 ㎡

■固定席とフリーアドレスの面積比率
固定席 75.1 %
フリーアドレス 24.9 %

■オフィスにおける「コラボレーション ®」スペースの割合
2014年 24.0 % (2011年は、17.4 %)

※2014年内田洋行調べ

営業セクションの時間生産性の向上

営業の行動分析を行ったところ、お客さまとの面談時間が勤務時間の25.5%しかないという衝撃の事実が浮き彫りになりました。もっとお客さまとの面談時間を増やすためには何をするべきか?その実現のため、デスクワークや会議を効率よく行う目的で「アクティブ・コモンズ」の導入を決定しました

営業セクションのコミュニケーションの活性化

縦割り組織の連携強化に向け、コミュニケーションを活性化するためには、ICTの活用による情報共有の精度とスピードアップが強く求められました。特に、「アクティブ・コモンズ」ではクイック・ミーティングの重要性が高く、引き出しや収納庫に保管されていた資料をデジタル化し、誰もがいつでもどこでも簡単に利用可能とする必要がありました

【内田洋行新川第2オフィス移転前の状況】

■営業の顧客面談時間比率 25.5 % / 日
■営業の在籍率 46.0 % / 日
■営業部門の執務スペース 7.3 ㎡ / 人(固定席)
■書類の保管量 6.1 fm / 人
■書類の保管スペース 412 ㎡
■会議時間 1時間35分 / 回
■ミーティングスペース 17か所

設計意図を明確にする

アクティブ・コモンズの導入目的が営業セクションの時間生産性の向上とコミュニケーションの活性化であることから、営業企画部門を除いてサポートセクションは固定席としました(営業企画部門は、創造性を最大化するためにグループアドレスを採用)。また、将来ある程度の組織変更に耐えられるよう、人員が30%増加しても対応できる設計としました

【アクティブ・コモンズの設計スペック】

■1人あたりの執務スペース
固定席 11.8 ㎡
フリーアドレス 7.4 ㎡

■固定席とフリーアドレスの面積比率
固定席 48.1 %
フリーアドレス 51.9 %

■オフィスにおける「コラボレーション ®」スペースの割合
2014年 26.0 %
従来のフリーアドレスの考え方では、連結デスクを画一的に配置し、その中で自由に席を選んで仕事をするという形態が多く、スペース効率重視の設計でした。しかし近年は組織間連携の強化によるイノベーションの誘発を期待し、社員の働き方の改革を促す設計が増加しています。(図表1)

オフィスに求める経営者の関心事
図表1:オフィスに求める経営者の関心事

呪縛からの解放

アクティブ・コモンズの最大の利点は、いつでもどこでも仕事ができることです。しかしそのためには、何物にも縛られないことが条件となります。オフィスでいう「何物」とは、LANケーブル、電源・電話線、そして紙であり、この解決策は以下の3つです。

1. ネットワークの設計
行動の自由を担保するために、全館無線LANを導入した。この際セキュリティやトラフィックの問題など、解決しなければならない課題が多いため、当初から情報システム部門と協働するべき。 

2. 端末の選択
業務の効率化と電源・電話線の課題をクリアするために、タブレットPCとスマートフォンを導入し、モバイル化を進めた。通話環境を全社IP化することで、スマートフォンを導入しても通話コストはほぼ抑えられる。反面紛失や盗難のリスクは格段に高まるため、MDM(モバイル・デバイス・マネジメント)の導入やメモリの暗号化対策などが必須条件となる。 

3. コミュニケーションインフラの整備
業務システムのモバイル対応も必須。一般にフリーアドレス導入時には在席管理、スケジュール管理、会議室予約、ペーパーレス化、コミュニケーションツールの利用、情報共有方法などが壁になる。

情報共有スピードの向上

まず行うべきは「ペーパーレスシステム」の導入です。文書管理体系を一から構築するのは総務担当者の負担も相当なものですが、当社では全文検索サーバー「Alfresco」を導入し、誰もがすぐ使えるように大幅に運用の敷居を下げました。また情報共有基盤として「Microsoft ® Office365」と「Lync」を導入。在席管理やスケジュール管理、社内SNSやWEBミーティングなどの基本機能を活用することで、インフラの整備を一気に進めました。
(※)のちにAlfrescoからSharepoint上でのドキュメント管理に移行

「コラボレーション ®」の推進

セレモニーとしての会議は時間のムダと割り切り、オフィスの至る所でクイック・ミーティングができるよう設計。タブレットPCやスマートフォンからモニターにワイヤレスでコンテンツを投影できるようにし、紙を使う会議を減らしていきました。情報共有スピードの向上は、すなわち意思決定スピードの向上につながります。

【内田洋行新川第2オフィス移転後の状況】

■営業の顧客面談時間比率 51.0 % / 日 (移転前の2倍)
■営業の在籍率 22.0 % / 日 (移転前の半分)
■営業部門の執務スペース 7.4 ㎡ / 人 (固定席、移転前と同等)
■書類の保管量 1.6 fm / 人 (移転前の7割減)
■書類の保管スペース 73 ㎡ (移転前の8割減)
■会議時間 51分 / 回 (移転前の半分)
■ミーティングスペース 33か所 (オープン・ミーティング、移転前の2倍)
何物にも縛られないアクティブ・コモンズでは、従来とは全く発想の異なる運用設計が可能となり、強く働き方の変革を促すことが可能となりました。

運用定着に腐心する

フリーアドレスの導入には、現場の理解がいちばん大切です。今までと全く違う働き方をしてもらうわけですから、心理的に変わりたくないという人間の欲求との闘いそのものです。合意形成はもとより、定着プロセスをしっかり行うことが大切です。(図表2)

ワークスタイル検討プロセス(内田洋行新川第2オフィス移転:アクティブコモンズ第1フェーズ)
図表2:ワークスタイル検討プロセス(内田洋行新川第2オフィス移転:アクティブコモンズ第1フェーズ)

定着までの試みと意識調査、その後の改善

経験的に、フリーアドレスを導入してもなかなか社員に根付かないのは、定着までのプロセスを省略しているケースが多いからであることがわかっていました。いくら導入目的を明確にして設計を行っても、定着までのプロセスをしっかり実践しなければ、成果が表れません。
そこで社内では「提案力強化分科会」や「自らの実践分科会」など5つの分科会を立ち上げ、社員自らが KPI や運用ルールを決めて実践・評価・改善していくことでスパイラルアップさせています。「作って終わり」のオフィスではなく、常に進化し続けるオフィスとして、現在もこのプロセスを回しています。

また、肝心のコミュニケーションの活性化については、80%以上の社員が、コミュニケーションが増えたと回答しています。成果が見えるということは、解決すべき課題の把握とともに、社員にとっての励みにもなります。情報を可視化することによってフリーアドレスの効果性を飛躍的に高めることが可能となります。
ただし、これらの活動を総合的にコントロールしていくためには黒子役が必要です。アクティブ・コモンズにおいては PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)と呼ばれるチームが、KPI の設定や進捗管理、分科会活動の運営、経営との擦り合わせ、定期的なアンケートの実施、そして組織に存在するさまざまなデータを分析し、具体的な成果につなげるまでの一連の活動をサポートしています
監修:知的生産性研究所 所長 平山信彦

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