ICT時代の労使コミュニケーション その実態と課題とは?

厚生労働省 社内コミュニケーションの変化

テレワークやICTツール等の普及により、経営者と従業員、または従業員同士のコミュニケーションにも変化が生じています。
本記事では、主に官公庁の調査結果を基に、労使コミュニケーションの現状と課題ついてわかりやすく解説します。

働き⽅や仕事に対する意識・価値観が多様化し、ICTツールによるコンタクトが普及している現在、労使コミュニケーションにも変化が生じています。

厚生労働省の調査では、コロナ禍前は労使間のコミュニケーションを良好だと捉える労働者が増加していましたが、テレワーク普及後はテレワークの課題として、従業員間のコミュニケーションが取りづらいという回答割合が企業・従業員ともに高くなっています。

一方、同省の別の調査によると、ICTにより企業から労働者への直接的・個別のコンタクトが容易になり、企業側は従業員エンゲージメント向上やスピード感のある意⾒集約に利点を感じています。
しかしその反面、SNSなどのコミュニケーションツールが普及し、個々の労働者による情報の受発信のスタイルが変化することによって、思わぬトラブルも生じています。

本記事では、主に官公庁の調査結果を基に、労使コミュニケーションの現状と課題ついてわかりやすく解説します。

テレワークにおけるコミュニケーションの実態

厚生労働省の委託調査「テレワークの労務管理に関する実態調査」(2020年8⽉20日~同年10月8日実施)は、回答結果を企業と従業員に分けて示しています。*1
同調査結果から、テレワークにおけるコミュニケーションの実態をみていきましょう。

企業は「従業員間のコミュニケーションのとりにくさ」を感じている

まず、オフィス勤務時と比べたテレワークでの法定時間外・深夜・法定休日労働の多さについて、「テレワークの方がやや少ないと思う」「テレワークの方が少ないと思う」を合わせると全体の61.9%なのに対し、「テレワークの方が多いと思う」「テレワークの方がやや多いと思う」と回答した企業の合計は5.4%とわずかです。
ただし、その理由として挙げられているのは、「他の社員とコミュニケーションが取りづらいから」が83.9%と最も割合が高く、一部の企業ではあるものの、コミュニケーションの取りづらさが労働時間にも影響を与えているという実態がみえてきます。

次に、テレワークで感じた課題を従業員規模別にみてみましょう(図1)。

図1:企業側がテレワークで感じた課題(従業員規模別)
(出所:厚生労働省(2021)「テレワークの労務管理等に関する実態調査【概要版】」 p.41)

上の図から、数々の課題の中で、「従業員同士の間でコミュニケーションが取りづらい」の割合が2番目に高く、企業規模が大きくなるにつれてその割合が高くなっていることが見てとれます。

従業員は「同僚や部下・上司とのコミュニケーションのとりにくさ」を感じている

次に従業員が挙げたテレワークのデメリットをみます(図2)。

図2:従業員がテレワークで感じたデメリット
(出所:厚生労働省(2021)「テレワークの労務管理等に関する実態調査【概要版】」 p.49)

図2のように、従業員が挙げたデメリットの中で最も割合が高かったのは「同僚や部下とのコミュニケーションがとりにくい」(56.0%)、次いで「上司とのコミュニケーションがとりにくい」(54.4%)でした。

以上のことから、企業、従業員ともに、テレワークではコミュニケーションがとりにくいことが課題だと感じている割合が高いことがわかります。

ICT時代の労使コミュニケーションの実態と課題

厚生労働省は2019年12月から2021年6月にかけて12回にわたり「技術革新(AI 等)が進展する中での労使コミュニケーションに関する検討会」を開催し、AI等の技術革新が進展する中での労使間のコミュニケーションの実態や課題の把握、望ましい対応などについて検討を重ねてきました。*2
その報告書の内容をみていきましょう。

労使コミュニケーションは良好だと捉える労働者の増加(テレワーク前)

まず、労使コミュニケーションについて、労働者はどう捉えているのでしょうか(図3)。*3

図3:労使コミュニケーションの良好度(労働者調査)
(出所:厚生労働省(2021)「技術革新(AI等)が進展する中での労使コミュニケーションに関する検討会 報告書(概要)」 p.3)

図3をみると、労使コミュニケーションを「非常によい」「やや良い」と捉えている労働者の合計は、1999年の42.2%から2019年の60.5%へと、次第に増加したことがわかります。

しかし、この後、コロナ禍の影響でテレワークが急速に普及し、その結果、テレワークの課題として「コミュニケーションのとりづらさ」を挙げている企業、従業員が多いのは先にみたとおりです。

今後は、テレワークを見据えた円滑なコミュニケーションの在り方を探る必要があるでしょう。

労使コミュニケーションを重視する内容

次に労使コミュニケーションを重視する内容をみていきましょう(図4)。*3

図4:労使コミュニケーションを重視する内容(複数回答)
(出所:厚生労働省(2021)「技術革新(AI等)が進展する中での労使コミュニケーションに関する検討会 報告書(概要)」 p.3)

上の図から、事業所、労働者ともに、「日常業務改善」と「作業現場改善」を重要視する割合が次第に増加していることがわかります。

このように、身近な事項への労使の関心が強まってきたことの背景として、働き方改革に向けた労使の取り組みが指摘されています。*2
また、ハラスメントに関する法制度の改正に伴い、苦情を含む相談窓口の整備が進んだことで、職場での苦情が労使コミュニケーションの場で従来にも増して取り扱われるようになってきたことも背景のひとつだと考えられています。

一方、「経営事項」を重視する割合は低下傾向にありますが、その原因については、更なる分析の必要性が指摘されています。

個別のコンタクトが容易になったことにメリットを感じる企業

ICTツールによって企業から労働者への直接のコンタクトが容易になったため、労働者のエンゲージメント向上やスピード感のある意見集約に利点を感じる企業は、個別のコミュニケーションの機会を積極的に増加させています。*3

このように、個別の労使コミュニケーションへのニーズや利点がある反面、ICTツールによって企業から労働者への直接のコンタクトが容易になった分、団体交渉の機会が減少しました。その結果、集団的労使関係に基づく協調的な労使関係が希薄化し、労使関係の不安定化や、個人と企業との交渉において交渉力に差が生じる状況が危惧されています。

したがって、集団的な労使コミュニケーションの再構築や、既存の労使コミュニケーションを補完する多様なコミュニケーションの在り方を検討する必要があるとの指摘があります。

デジタルツール活用の工夫

現在は職場でのコミュニケーションにICTツールが活用されることが多くなりました。
こうした取り組みによって労働者が情報を得やすくなるメリットがある一方で、情報発信が一方通行になるデメリットもあります。*2

そのため、労働者が必要な情報を的確に得られるようにするための工夫が必要だと指摘されています。労使コミュニケーションの方法として、クラウドやグループウェアなどを活用して、労働者が自由に情報発信や情報共有、意見交換できる場を設けている企業が多くみられます。

また、職場における日常の労使コミュニケーションにおいて、デジタル技術を十分に活用しつつも、個別の意見や苦情には個別の面談、相談窓口で対応するなど、デジタル技術では対応できない場面や人事評価など労働者にとって大切な局面では対面でコミュニケーションをとる企業もあります。*2,*4

SNS活用による労使コミュニケーション

最後に、SNS活用による労使コミュニケーションの実態と課題についてみていきます。

個人・企業間の意識の乖離から生じる問題

SNSの普及によって、自分の興味があるものをフォローすることで自分の求める情報の受信が可能になりました。また、自分の考え方に対する共感を即時に得られることによって各自の考え方が強化されるという現象が生じています。*3

こうした状況から、個人の労働環境に関する考え方もより強められる可能性があります。さらに、SNS上で同じような問題意識を持つ人々の共感を得られることから、職場への不満の声を上げやすくなっている状況が指摘されています。

一方で企業は、組織として考え方を速やかに変化させていくことが容易ではなく、個人と企業との間で労働環境に関する考え方の間に乖離が生じる可能性が高くなっています。そのため、労働条件などについて労使で話し合いをする際、前提となる認識のずれによるコミュニケーション不全が生じやすくなっています。

中には、労働者が職場で受けた不本意な処遇・取扱いについてSNS上に会社名が特定される形で書き込んだ結果、社内での問題が公になり、SNS上で当該企業に対する批判が巻き起こり、大きな影響を受けるという事態も生じています。

企業はこうしたことも念頭に置き、労使コミュニケーションに取り組む際には、企業・労働者間の認識の違いを埋める姿勢が求められます。

SNSの文体にみられる世代間格差

最後に興味深い話題を1つご提供します。
テレワークが普及し、職場でのコミュニケーションが対面や電話からチャットに移りつつある現在、役員・管理職と部下がチャットでやりとりすることが常態化している企業も多いでしょう。そのような状況下、SNSで中高年(役員・管理職)がよく使うチャットの文体に注目が集まっています。*5

まず、その文体をみてみましょう(図5)。

図5:中高年によるSNSの文体
(出所:読売新聞オンライン「[関心アリ!]「おじさん構文」若者が注目…中高年のチャット 絵文字や片仮名多用し長文」[2022年10月4日])

ちなみに筆者の周辺の50代の男性数人に図5を見せたところ、「あ、僕の文体と全く同じ」とのことでした。

2022年8月に中国のIT大手百度(バイドゥ)の日本法人が、1990年代半ば以降に生まれたいわゆる「Z世代」の若者を対象に、中高年チャットの気になる特徴を調査した結果、以下のような特徴がわかりました。*6, *5

  • 絵文字を1文に1個以上入れる
  • 「○○チャン」と片仮名を多く使う
  • 親しくないのに友達口調
  • 読点「、」が多い
  • 聞かれていないのに近況報告をする
  • 改行が多い

一方、2010年代後半頃から、チャットでは即座の反応とスタンプ利用が増え、若者同士では1行のやり取りも多いのですが、こうした世代間格差は果たしてデメリットなのでしょうか。

成蹊大学客員教授でITジャーナリストの高橋暁子氏は、中高年のチャット文体について、ガラケー時代の名残ではないかと分析しています。*5
1990年代後半から2000年代は絵文字を使わないと「黒メール」と怖がられました。こうした背景から、高橋氏は上のような中高年の文体には「若者への気遣い、優しさが表れている」と考えています。

また、昭和女子大学の天笠邦一准教授は、こうしたコミュニケーションの世代間格差について、コミュニケーションに正解はないとし、目的に応じて使い分けることを提案しています。
「公私ともに、すぐに返信がほしいときは簡潔な表現、送った文章からいろいろ考えてほしいときは長文にするなど切り替えるといい」というのです。
そのような使い分けは、チャットによる労使コミュニケーションにおいても有益でしょう。

おわりに

これまでみてきたように、新技術の進展によって労働者の働き方や意識・価値観が多様化し、それが労使コミュニケーションにも影響しています。
こうした状況の下、労使の安定した関係を構築するためには、企業の実情に応じた形での集団的・個別的な労使コミュニケーションの活性化が重要です。


[2023.01.13公開]

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