第4回:テレワークは生産性が低いって本当?感染防止だけでなく、テレワークの価値を考える - 白河桃子の働き方改革コラム -

テレワーク 生産性

コロナ禍になってから、すでに1年超。コロナで私たちの生活は大きく影響を受け、特に働き方に関しては2020年「パラダイムシフト」が起きました。これから私たちの「働き方」はどのように変わっていくのでしょうか?白河桃子氏による連載コラム「働き方のパラダイムシフト(全6回)」では、ビジネスパーソンの方へ、未来志向でこのパラダイムシフトをチャンスとして生かすための Tips をご紹介いたします。

緊急事態宣言が終わるたびに日本のテレワーク比率は少しずつ低下していきます。最新の調査(2万人規模、パーソル総研)によれば、「正社員のテレワーク実施率は全国平均で27.5%、東京都で47.3%」でした。生産性が低いという話も出ます。しかし、そろそろ緊急時だけでなく、本当のテレワークの付加価値を企業戦略として考えてみませんか?

パーソル総合研究所:第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査

上記の調査で生産性について「職場に出勤したときの仕事の生産性を100%としたとき、テレワークしたときの生産性がどのくらいになるか」を聞いたところ「全体平均で84.1%」でした。しかしテレワークをコロナ以前から運用してきた企業とそうでない企業は差があり、前者は89.4%、後者は82.2%と開きがあります。(パーソル総合研究所:第四回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査)

不思議なことに、テレワークで生産性が低いと答える割合は、日本が非常に高いのですね。レノボジャパンの世界10か国(日本、米国、ブラジル、メキシコ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、中国、インド)の調査によれば、10か国の平均は13%なのに、日本は抜きん出て40%の人がテレワークではオフィスに比べて生産性が低くなると回答しています。テレワークで生産性が低下というのは日本のIT投資への遅れが原因と、レノボジャパンは分析しています。

レノボ・ジャパン合同会社:[プレスリリース]Withコロナ時代、在宅勤務の拡大にテクノロジーが貢献より、日本では生産性の低さを40%が懸念:レノボ国際調査

また総務省の白書にも「テレワークでの生産性」が言及されています。個々人がテレワークの「生産性、充実度」を実感するには、「テレワーク時の仕事の進め方に関し、「業務範囲・期限の明確性」「業務の裁量性」「評価基準の明確性」が必要で、テレワークをコロナ前より行っていた会社では、その3つの値が高いのです。テレワークの方が生産性が高い、と答える人は「仕事の自己裁量」があり「自己完結できる仕事」の人が多いので、この調査結果には私もとても納得するものがありました。また個人としては平均1時間という日本の通勤時間がなくなることで、「ライフに使える時間が増える」というメリットもあります。

「テレワークは生産性が低いから、コロナが終わったらもとに戻そう」と考える経営者もいると思いますが、このテレワーク率はあくまで平均です。実態は「格差」の拡大です。平均が低いからと安心していると、大企業と中小企業、または業界によって、首都圏と地方で、大きな働き方の「格差」が出てきています。
テレワークは変化の激しい時代に「柔軟に変化できる企業なのかのバロメーター」だと思います。

そろそろ「感染対策」でもなく、「個人の生産性への感じ方」でもなく、テレワークでの成果とは何か、業績や人材獲得などにおいての成果をしっかり検証できる段階と思います。テレワークは「緊急対応」ではなく、「ビジネスの可能性を広げるチャンス」と捉える企業も増えています。

業績回復の明暗を分ける「リモート営業」

「コロナで打撃をうけたうちの業界でも、業績が回復している企業とそうでない企業の差がわかりました。それはリモート営業できているかいないかです」
住宅関連のコーディネーターの女性に聞いた話です。コロナになって、住宅関連のショールームも、感染対策で休業したり、訪問者の人数制限をしたりと、厳しい状況となっています。しかしステイホームもあり「住まいを快適にしたい」という人の欲求は高まっている。そこで業績が早くに回復した企業とそうでない企業の差をヒアリングしたそうです。決め手は「リモート接客」でした。
「本来は実際に顧客に実物も見てもらい、顧客に対面営業していく」が当たり前とされてきた業界。しかし「当たり前」を壊してみたらどうなるのか? 全てが非接触で完結しなくても、リアルとリモートのハイブリッドの営業活動は可能だということがわかりました。「家にいながら遠くの顧客にもリーチできた」と、潜在的なニーズを捉えることもできると好評だそうです。
「リモート営業だと、『ちょっとキッチンのここを測ってください』とお願いすることもできる」「家族全員がいたので、意思決定が早かった」など、リモートでのメリットはたくさんありました。「会わないと失礼になる」という「当たり前」はコロナで大きく崩れたのですね。

「テレワークは生産性が低い」という調査結果を鵜呑みにして、もしかすると「大きなチャンス」を捨てているかもしれないコロナは「リトマス試験紙」と中原淳立教大学教授もおっしゃっていました。コロナは「変わることを恐れない会社」と「変わりたくない会社」を判定するリトマス試験紙なのです。
あなたの会社はこのリトマス試験紙にどのような反応でしょうか?


参考文献:
令和3年版 労働経済の分析 -新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響
https://rc.persol-group.co.jp/news/202108171000.html
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/telework-survey4.html
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000013608.html


[2021.08.24公開]

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