改正労働時間等設定改善法(2019年4月1日に施行)により、事業主の努力義務とされた「勤務間インターバル制度」について、制度の概要や企業での導入事例、導入手順などを分かりやすく解説いたします。
働き方改革関連法の一環として、2019年4月1日に施行された改正労働時間等設定改善法(正式名称:労働時間等の設定の改善に関する特別措置法)では、新たに「勤務間インターバル制度」の導入が事業主の努力義務とされました。
勤務間インターバル制度を効果的に導入すれば、従業員の身体や精神にかかる負担を軽減し、働きやすい職場を作ることに繋がります。各企業における導入事例を参考に、自社に合った形による勤務間インターバル制度の導入をご検討ください。
今回は、働き方改革に効果を発揮し得る「勤務間インターバル制度」につき、概要・導入事例・導入手続き・助成金などをまとめました。
「勤務間インターバル制度」とは、1日の勤務が終了した後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル時間)を確保する仕組みです。
(例)最低11時間のインターバル時間を確保する場合
→午後10時に退勤したら、翌日の出社は午前9時以降とする必要がある
労働者の生活時間(プライベートな時間)や、睡眠時間を確保するうえで、勤務間インターバル制度の重要性が指摘されています。2019年4月1日に施行された改正労働時間等設定改善法により、勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務とされました。
2021年7月に閣議決定された最新の「過労死等の防止のための対策に関する大綱 *1」によれば、勤務間インターバル制度の導入状況別の企業割合は、以下のように分布しています。
導入している…4.2%
導入を予定又は検討している…15.9%
導入の予定はなく、検討もしていない…78.3%
上記のデータからは、現実に勤務間インターバル制度を導入している企業は少数派であり、制度に関する周知が十分に進んでいない状況が読み取れます。
「過労死等の防止のための対策に関する大綱 *2」では、令和7年(2025年)までの数値目標として、以下の2点が挙げられています。
厚生労働省が公表している「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル *3」では、企業における勤務間インターバル制度の導入事例が掲載されています。そのうち2事例を紹介します。
適用対象者を絞ったテスト運用を行い、その後順次拡大させていく形で勤務間インターバル制度が導入されました。
得意先に対する接待の終了時間と、早朝の時間帯に行われることの多いミーティングの開始時間のバランスを考慮し、インターバル時間は「10時間」に設定されました。
従業員からは、
「翌朝の業務がはかどるようになった」
「プライベートの時間を確保できるようになった」
「時間内の業務完了を目指すようになった」
などの声が上がったとのことです。
人事部主導で経営層に対する働きかけを行い、トライアル導入を経て正式に勤務間インターバル制度が導入されました。
インターバル時間は、通常の従業員については「11時間」、MR職の従業員については「9時間」とされました。職種によってインターバル時間を分けている点が特徴的です。
従業員からは、
「時間を気にしながら仕事を進めるようになった」
「業務の見直しに繋がる」
などの声が上がったとのことです。
いずれの事例でも、自社の実情に合わせた勤務間インターバル制度の形を検討した後、テストを経て正式導入が行われています。 また従業員の意見を見ると、健康維持に関するメリットに加えて、業務のやり方を見直すきっかけになったという内容が見られる点も注目されます。
厚生労働省が公表している「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル *4」では、勤務間インターバル制度の導入手順を以下のように整理しています。
ステップ1:労働時間等に関わる現状の把握と課題の抽出
実際の従業員の労働状況を調査・確認し、インターバル時間の不足などの解決すべき課題を把握します。
ステップ2:導入目的の明確化
ステップ1で把握された現状・課題を踏まえて、勤務間インターバル制度の導入目的を明確化します。導入目的は、労使間で共有することが大切です。
ステップ3:導入に対する経営層のコミットメント強化
勤務間インターバル制度を社内に浸透させるため、経営層がその実施に積極的に関与する姿勢を明確化することが重要になります。従業員に向けて、定期的にメッセージを発信することが効果的です。
ステップ1:制度の詳細の決定
勤務間インターバル制度を適用する従業員の範囲、インターバル時間数、例外を認めるケース、インターバル時間を確保できなかった場合の対応など、具体的な制度の詳細を決定します。
ステップ2:規定の整備
就業規則や労働協約などに、勤務間インターバル制度の具体的な内容を明記します。
ステップ1:社内への周知
勤務間インターバル制度導入の意義や、インターバル時間を確保するための工夫・留意点などにつき、現場の管理職や従業員に対して事前に周知を行います。
ステップ2:顧客や取引先への説明
短納期発注や突発的な作業依頼が続くことを避けるため、顧客や取引先に対して配慮を求める説明を行います。
ステップ3:インターバル時間を確保しやすい環境づくり
管理職は、部下の勤務実態を把握したうえで、必要に応じて業務計画や業務量の調整などを行います。
従業員自身も、働き方や休み方、生産性向上に対する意識を高めていくことが求められます。
ステップ1:制度の効果検証、課題等の洗い出し
勤務間インターバル制度の導入から一定期間が経過した段階で、導入目的に基づき期待された効果が表れているかなどを検証し、課題などを洗い出します。
ステップ2:制度内容・運用方法の見直し
ステップ1で明らかになった課題につき、制度内容や運用方法を見直して改善を図ります。
勤務間インターバル制度を効果的に導入するには、自社の実情に合わせた制度内容とすることが必要不可欠です。そのため、慎重な事前検討・制度設計と、導入後の適切な運用・見直しが求められます。
中小企業事業主が勤務間インターバル制度を導入・拡充する場合には、取組の実施に要した経費の最大4分の3に当たる助成金を受給できる可能性があります。
勤務間インターバル制度の導入を検討している方は、厚生労働省ウェブサイト *5 から申請要件などをご確認ください。但し、現行の助成金の申請期限は、2022年11月30日(必着)で受付終了となっております。
[2022.12.15公開]
*1) 厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」[令和3年7月30日] p.2
*2) 厚生労働省「過労死等の防止のための対策に関する大綱~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」[令和3年7月30日] p.36
*3) 厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル―職場の健康確保と生産性向上をめざして―」p.60-67
*3) 厚生労働省「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル―職場の健康確保と生産性向上をめざして―」p.18以下
*5) 厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」