なぜ今、人的資本経営なのか?
白河桃子氏による連載コラムの第2弾「働き方改革x人的資本経営最前線(全6回)」では、ビジネスパーソンの方へ、今更聞けないさまざまなワードを読み解きながら、働き方改革や人的資本経営の最前線を分かりやすくお伝えします。
最近「D&I」だけでなく「DE&I」という言葉がよく聞かれます。「働き方改革」や「ダイバーシティ(多様性)」の次のブームなの?今度は何がくるの?と思っている方も多いかもしれません。しかし「働き方」はベースのOSのようなものとお考えください。働き方のOSがアップデートされてこそ、次の段階の施策がしっかりと実行できるのです。
これまで講演や執筆記事、著書を通じて「多様な働き方がなければ多様性など絵に描いた餅です」とずっと言ってきました。そして、コロナを経て、柔軟な働き方という選択肢は大きく広がりました。長時間労働ではなく生産性が価値となり、リモートワーク、フレックスタイムも広がりました。つまり「多様性」のベースである「多様な働き方」がやっと進んできたのです。多様性の本格的な実現のベースが整ったということです。ここからは確実に多様性の「果実」をとっていく戦略が必要です。
多様性の「果実」とは、リスクマネジメントという「守りの観点」と、イノベーションによる成長という「攻めの観点」の2点があります。多様性推進とは「女性活躍」のことだけでなく「全員活躍」のことです。しかし日本では最多のマイノリティである「女性活躍」を実現しながら、全員活躍に到達するのが早道です。女性は「全員活躍」のための必須の出発点であり、多様性に向かう通過点なのです。
さて、改めて「D&I」(ダイバーシティ&インクルージョン 多様性と包摂)から「DE&I」(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン、多様性と包摂、公平性)という流れを考えてみましょう。 すでにD&Iに取り組んできた企業が「Equity」をプラスすればいいのです。目的としてはジョンソン&ジョンソンの表現が非常によかったので、引用させていただきます。
「異なる背景、信念、経験を持つ人々を結びつけること。そして成功を阻む障壁を特定し、排除する努力をすることで、誰もが可能性を最大限に発揮できるようになり、より健康的な世界を創造するためのイノベーションに貢献することができる」
(ジョンソン&ジョンソン HPより)
DE&Iは木箱に乗ってりんごをとることに喩えられますが、同じ大きさの木箱を誰にもあげて「平等だ」と言うだけでは足りません。それぞれの背の高さが違うからです。誰もがりんごをとれるように、その人にあった高さの木箱をあげることで、誰もがりんごに手が届き、全体の収穫量もあがります。
この概念も女性を対象に考えるとわかりやすいです。例えば日本の制度を考えると「育休」「時短」「残業免除」など、子育てとの両立支援制度は整備されています。男女ともに同じ権利を持っています。男性が育休をとり、時短をとり、残業免除を申請してもいいのですが、男性で育休をとる人は女性の10分の一、時短や残業免除をとる人はいません。同じ制度がありますよ、だけでは解決しません。
そもそも「子育ては女性」のアンコンシャスバイアスが強く、さらに「女性が男性の5倍の時間、無償ケア労働(家事育児介護など)をしている」国で、男女に同じものを与えて機能しないのです。男性は育休をとりたくても、「制度を知らなかった」「取得すると評価に影響するのでは?」という理由で制度を使うこともできなかったのです。企業が「育休100%」を強く推進したり、2022年からの育休法改正で、男性も育休をとりやすい制度を整備することで、やっと数字があがってきます。 現に「有価証券報告書」に男性育休取得率の開示を義務化することになった法改正後の速報では「取得率46%」と大幅な改善が見られました。(「従業員1,000人超企業のうち、男性育休等取得率は46.2%、男性の育休等平均取得日数は46.5日となりました」(厚生労働省「イクメンプロジェクト」による「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査」より) 「そもそも女性は管理職を望まない」「リーダーは男性の役目」などのアンコンシャスバイアスを管理職から払拭していこうという研修も必要です。
同じ制度を与えているのに「女性管理職が少ないのは女性の意識のせい」といっているうちはまだ「DE&I」は浸透していません。男性も女性もノンバイナリーも、子育てする人もそうでない人も、それぞれの固有の事情、固有の障壁をとりのぞき、誰もが組織に貢献することができる、そんな組織を作ることが本来の目的です。
そして岸田政権の「新しい資本主義」では「人的資本経営」が声高に謳われています。人的資本経営とは「人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」(経産省HP)です。人的資本の開示義務もあり、その中でも注目されているのはやはり「多様性」と「働き方」の指標です。内閣府の公開した人的資本の開示には18項目の例がありますが、その中でも「ダイバーシティ」(3項目)「労働慣行」(5項目)があります。本連載では人的資本経営の企業事例、最新動向とキーワードをわかりやすく解説していきます。
「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
人的資本経営とは人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」
(経産省 HPより)
[2023.08.10公開]
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