フリーアドレスとは、オフィスから社員の個人席をなくし、業務や気分などで席を移動するワーキングスタイルです。1980年代に一時ブームとなり、最近は再び注目されています。この記事では、フリーアドレスが失敗する主な原因や事例、成功させる方法について解説します。ぜひ参考にしてください。
フリーアドレスの導入が失敗するケースは、少なくありません。主な原因9つについて解説します。
他社を真似て漠然とフリーアドレスを導入しても、業務上のメリットや労働環境の改善などを社員にしっかりと説明できなければ理解されず、フリーアドレスが浸透しません。どのようなオフィススペースを実現したいか、どのような働き方をしてもらいたいかなど、フリーアドレスの導入目的を明確にすることが重要です。
業務中、社員個人への来客や電話など、本人にリアルタイムで連絡しなければならない状況もあるでしょう。そのようなとき、社員がどこにいるかがわからず連絡もつかないと、取り次ぐ人や来客の時間を浪費することになるなど、業務が停滞してしまいます。
フリーアドレスを導入するなら、社員一人ひとりの居場所を把握できるシステムの導入や確実に連絡できる方法、報・連・相を円滑にする仕組みづくりが欠かせません。
従来は新人をベテラン社員の近くにし、指導・サポートをするのが一般的でした。一方、フリーアドレスだと新人に目が届きにくく、適切なタイミングで指導できない可能性があります。
対策として、1on1ミーティングを習慣づけるなど、新人とのコミュニケーションを積極的にとる体制を整えなければなりません。
フリーアドレスを導入すると、部署や地位を超えて社員同士がコミュニケーションする機会が増えます。それに伴って、雑談の頻度や量も増加するでしょう。
さまざまな価値観や知識経験を持つ社員と、交流が新しい発想の源になることもあります。一方、周りの雑談が気になると、自分の業務に集中しにくくなることも考えられます。
集中したい人用の隔離スペースを設けるなど、個人の作業効率にも配慮したオフィス空間の設計が必要です。
フリーアドレスを導入して個人席をなくすと、社員は自分の席に書類を保管しておけなくなります。業務の多くを書類ベースで行っている会社の場合、社員が席を移動するたびに書類を持ち歩かなければなりません。社員にとって不便なだけでなく、書類を頻繁に移動することによって重要書類の紛失リスクも増加するのが問題です。
フリーアドレスを導入するなら、業務上で必要なデータをクラウド共有するなど、ペーパーレス化する必要があります。
社員の在席率が低くても業務がスムーズに進むには、社外にいても社内と同様に、資料のチェックや報告書の作成といった業務ができる環境が整っている必要があります。
フリーアドレスを成功させるには、業務に必要なデータやレポートの共有方法をクラウド化するなど、モバイルワークの推進が欠かせません。
フリーアドレスでは席が毎日のように変わるため、知らない顔ぶれの中で業務することも普通になります。特に、社員数が多かったり、オフィスが広かったりするなど、規模が大きい会社がフリーアドレスを導入すると、オフィスにいる人が社内の人かどうかの区別が難しくなるかもしれません。
機密情報の漏えい防止などセキュリティ対策上、入退室者の管理や身分証明書の携帯、セキュリティリテラシー教育が必要になります。
フリーアドレスを導入しても、社員の選択にゆだねるだけでは結局、いつも同じ席を利用する人が多くなってしまいがちです。フリーアドレスの定着をはかるには、毎日、違う席に座ることを、トップや担当者が積極的に奨励していかなければなりません。
「席を変えるのは面倒、作業がしにくくなるのでは」という社員の不安や不便を解消するためには、どの席を利用しても問題なく作業ができるよう、にオフィス環境を整備することも大切です。
トップがフリーアドレス導入を決定した後に、担当者へ任せきりでフォローが不足していると、担当者は社員から不満が出た場合に説得できなくなるかもしれません。トップはフリーアドレスの導入から定着まで責任感を持って、担当者をサポートしていく必要があります。
また、担当者が人事異動などで変更になる場合は、フリーアドレスを導入した目的や意義を後任にもしっかりと引き継ぐようにしましょう。
会社のスタイルや業種などにより、フリーアドレスの適性が異なります。導入に向いた会社とそうでない会社を解説します。
もともとモバイルワークを中心に業務が円滑に進んでいた会社は、フリーアドレスに向いています。モバイルワークが成功しているということは、データ共有のクラウド化やセキュリティ対策など、リモートワークを導入に必要な環境が既に整備されていると考えられるからです。その他、ワークスタイルの自由度が高い会社も、フリーアドレスへの適応が早いでしょう。
紙の書類をベースに業務を行っている会社や経営体質が古い会社の場合、フリーアドレスを導入するハードルは高いと考えられます。また、個人情報や公共性の高いデータを扱う会社は、セキュリティ対策を強化する必要があるため、フリーアドレスを導入するにはリスクが大きいかもしれません。
ここでは、フリーアドレスを成功させる主な方法を紹介します。3つ解説しますので、自社にあうものを探してみましょう。
社員の在席率はフリーアドレスが適しているかどうか、フリーアドレスを導入する場合はどのくらい席を減らせるかの判断基準となります。在席率の算出方法は以下の通りです。
まず、チェック項目を「在席」「一時的に離席」「退席」の3項目に設定します。次に、業務を行う曜日と時間のすべてで在席状況を計測します。その後、「在席」「一時的に離席」「退席」のそれぞれについて、最小・平均・最大値を出してください。
在席率を算出すれば、在席率の高い部署と低い部署、離席・退席数を把握できることにより、フリーアドレス導入で減らすべき席数が明らかになります。
グループアドレス(デザインアドレス)とは、部署など業務を行うグループ単位で席の範囲を固定する方法です。だれがどこにいるかわからなかったり、近くにいる人が社内の人かどうかわからなかったりなど、フリーアドレスにまつわる問題の解決が可能です。
グループ席の配置方法によっては、グループ内のコミュニケーション向上もはかれます。グループ単位で席のエリアをシャッフルすれば、他部署の社員から刺激を受ける機会の獲得も可能です。
ABW(Activity Based Working)とは、業務の内容によって最適な作業場所を選択するワーキングスタイルを意味します。ABWでもフリーアドレスと同様のメリットを得られるだけでなく、業務のさらなる効率化もはかれます。
ABWなら、個人で集中したい作業をするときは個室の選択が可能です。また、ブレーンストーミングで新しい発想を生み出したいときは複数人がコーヒーを飲みながらテーブルを囲めるオープンスペースを利用できます。
電話を受発信がメインとなる業務をするときは、電話専用スペース、立ち仕事がメインのときはスタンディングスペースなどを分けましょう。作業エリアの分け方は会社ごとに異なる業務内容に応じて、決定することが可能です。
※ABWについてはこちらもご参照ください
ABWとは?フリーアドレスとの違いやメリット・デメリットなどを解説
スマホやPCで社員の居場所を検索できるシステムがあれば、今誰がどこにいるのかが確認でき、会いたい相手を探す“名もなき仕事”の時間を減らすことができます。
また、オフィスの混雑状況が可視化できると、空いているエリアを選んで執務場所を決めることもできます。
※社員居場所検索システムについてはこちらもご参照ください
「人」と「場」に関するデータを基に、働き方と働く場を最適化する SmartOfficeNavigator
株式会社内田洋行とブラザー販売株式会社様におけるフリーアドレス導入の成功事例について、以下でそれぞれ、紹介します。
株式会社内田洋行は、クラウド導入支援やITインフラ構築、ECOソリューションなどのサービスを提供しています。同社ではフリーアドレスを「アクティブ・コモンズ」と呼び、生産性の高いアクティブな組織づくりの装置としています。
フリーアドレス導入にあたり、業務の効率を妨げる要素である「紙の書類」「電源と電話線」「LANケーブル」の排除を徹底しました。具体的には、ペーパーレスシステムの導入、オフィス全館への無線LAN導入、スマートフォンやタブレットパソコンによるモバイル化、コミュニケーションインフラの整備です。
さらに、フリーアドレスを定着させるために5つの分科会を運用した結果、80%以上の社員は、「アクティブ・コモンズ」でコミュニケーションの増加を実感しました。フリーアドレスを活用できる環境整備と同時に、定着までのプロセス実践が成功の鍵といえるでしょう。
ブラザー販売株式会社様は、主にプリンターや複合機、家庭用ミシンなどを製造しています。「B to Bへの転換」をモットーとして業務変革を目指す一環として、フリーアドレスを導入しました。部門を超えた社員の交流を推進するべくラウンジエリアやクイックミーティングスペースを設けたほか、自社製品を日常的に使用できる場も構築しています。
同社には、約10年前にもフリーアドレスを導入・中止した経緯がありました。今回の再導入では、自由なワーキングスタイルを可能にする社内制度を導入しました。加えて、社員の不安を解消するシステムを整備したことで、フリーアドレスが定着しつつあります。
社員がフリーアドレスを受け入れられたのは、導入理由や目的をトップから社員へ発信した成果でもあるでしょう。導入するだけでなく、定着へのプロセスも重要です。
オフィスの席数を減らすことによって、部署を超えた意思疎通やスペースの有効活用につながるフリーアドレス。在席率を算出したうえで、完全フリーアドレスでなくグループアドレスやABWを導入するほうが失敗を回避できます。導入後は定着までのプロセスも欠かせません。
ウチダのオフィス移転・リニューアルは、フリーアドレスの導入支援やオフィスの大規模移転・リニューアルに強く、ICT・AV・PM実績が豊富です。「他社の事例紹介」をはじめ、「オフィス移転お役立ちコラム」や「オフィス移転マニュアル」などのコンテンツもぜひご一読ください。