お役立ち情報

働き方変革とテクノロジー

働くひとの視点からみた働き方改革Change Working Forum 2018 セミナーレポート

内田洋行が2010年から毎年開催している働き方変革をテーマにしたイベント「Change Working Forum 2018」より、パネルディスカッション「働くひとの視点からみた働き方改革」に関するセミナーレポートです。昨年に引き続き、株式会社アイ・ティ・アール取締役の舘野真人氏、『月刊総務』編集長の豊田健一氏、『Works』編集長の石原直子氏をお迎えし、「働くひとの視点からみた働き方変革」をテーマに、IT、総務、人事とそれぞれの専門分野での気づきをディスカッションしていただきました。

パネラー&モデレーター

  • パネラー舘野 真人
    株式会社アイ・ティ・アール取締役 シニア・アナリスト
  • パネラー豊田 健一
    ウィズワークス株式会社取締役
    『月刊総務』編集長兼事業部長
  • パネラー石原 直子
    リクルートワークス研究所人事研究センター長 『Works』編集長
  • モデレーター平山 信彦
    株式会社内田洋行 執行役員
    知的生産性研究所 所長

現場目線で感じた、この1年の働き方変革の注目点、課題

平山
パネルディスカッション2 では働き方変革の要となる「IT」「総務」「人事」の分野のスペシャリストの方々を お招きしました。3 人の方にご参加いただくのは今回で3年目。定点観測的な意味合いで、まずはこの1 年の働き方変 革の動きについて印象に残っていること、注目したことをお聞きしたいと思います。
舘野
パネルディスカッション1 でも話題に上りましたが、前年と圧倒的に違うのは、AI とRPA ですね。お客様間でも、テクノロジーが人の代替を一部だけでも行えるようになってきたことを前提に、話がされるようになってきました。その中で私は、テクノロジーが人のエンパワーメントになるということに注目しています。代替はOA などの延長線上でし かありませんが、人ならではの非常に貴重な営みを、きっちり支援するという役割も重要ではないかと。そういった視点 も併せてテクノロジーを考えていきたいと思っています。
豊田
私は、企業への取材をとおして注目している点が3つあります。1 つは働き方改革の捉え方。以前は働き方改革 を目的にしている企業が多かったのですが、会社として何を目指すか、どうあるべきか追求したところ、結果として働き 方が変わったという企業が増えました。2 つ目は多様性に関する意識。多様な人たちが交流すると、イノベーションが起 きる率が確実に高まります。加えて、多様な働き方をすることによって自立性が高まれば、オープン・イノベーションにもなる。 つまり、生産性、多様性、自立性が結局はイノベーションに結びつくことを踏まえて、施策を考えている企業も 出てきています。最後は、イノベーションが生まれるきっかけとなる、セレンディピティが起こりやすいオフィスに対す る要求の高まり。これは、まさに総務部門の領域です。以上、3つの動きに関心を寄せています。
石原
私は、いろいろな会社が働き方改革に取り組むようになったのはいいものの、個人がついていけていない、働く人の満足度アップに結びついていないケースが多いことが課題になっていると思います。その一方、会社の価値をどうやっ て生むのかに立ち戻って、大きなチェンジを実現することで可能性を見出すことに真剣に取り組む企業が出てきています。これはよい方向への流れだと思いますね。
働き方変革の実際 変革プロジェクトの主管部門の図

テクノロジーによる可視化はエンパワーメントにもつながる

平山
舘野さん、テクノロジーが人のエンパワーメントになっている具体例を紹介してください。
舘野
メッセンジャーといわれるようなショートメッセージをやり取りするツールがあげられると思います。メールは、 誰に何を伝えるかを完全に送り手に依存しますが、ソーシャルネットワーク的な機能、利点を持つツールは、人間同士のコミュケーションをさらに活性化させることができます。また、チャットボットのように、テクノロジーを発信者とする こともできる。これによって、今までメールを書く、読むにかかっていた時間が大幅に削減され、さらに「いいね」など、 反応が即座に戻されることで、組織の中に意見やアイデアなど、一石を投げ込む構造が少しずつ変わってきています。  あとは「いいね」もそうですが、ちょっとした感謝を伝えられる環境をつくり、それらを見える化してモチベーションを上げていくなど、 組織が本当に健全かどうかを、なんらかのシステムの力を借りて可視化しようという取り組みも始まっています。
平山
テクノロジーによる可視化がエンゲージメントにも関与しているわけですね。豊田さん、総務の仕事における可視化をどうご覧になっていますか?
豊田
総務の仕事は多岐にわたり、煩雑化していますが、やはりそれを見える化していかなければならないと思います。 そのうえで、総務業務をメニュー化すれば、問い合わせをする側の負担も軽減される。業務を見える化し、本来行うべき ものにフォーカスしていければ、総務の業務全体をより効率性化でき、また創造的な仕事に取り組めれば、総務部門のモ チベーションが上がり、結果、総務からのサービスを受ける人にも自身の仕事に打ち込む環境が、総務として提供できるようになると思います。

自由な働き方で成果を上げるには、責任を果す「自立心」が不可欠

平山
石原さん、実際に取材で現場の声を聞かれて、何か最近、気になっていることはありますか?
石原
つい最近の弊誌で「在宅ワークリテラシー」という特集をしました。働く場所をもっとフリーにしていこうという 話が進む中、これは私自身の実感でもありますが「在宅ワークをしたら生産性が下がる人いるよね!」そんな話をきっか けにこの特集を組んだのですが、そのとき、在宅ワークをすることも多い妹に話を聞くと「サボる人は、家でも会社でもサボる」といわれたのです。
平山
在宅ワーク実践者ならではの、リアルなご意見ですね。
石原
それを聞いて、やはり自立をきちんと問わなくてはいけないのだと思いました。特集の取材先に、在宅ワーク支援 金を社員に渡しているという会社がありました。すると、集中できる椅子を買った、家から近いコワーキングスペース に行けるように自転車を買ったなど、皆さん、自分に託された仕事をより効率的に行うために使っていらした。責任を果たすという思いがあれば、行動が変わると思うんですね。働き方と自立の関係が、よい動きになっていけばいいなと思います。

効率化で空いた時間をどう使うかでハピネス度は変わる

平山
先ほど、働き方変革を推進しても半数の人はハピネスを感じていないというお話がありました。1 つにはプレッ シャーを感じる人がいるということがあげられると思いますが、他の原因はなんだと思われますか?
石原
私が、重大な課題と捉えているのは、働き方変革で効率化を進めた結果、空いた時間を活用できていない人が多いということ。特に壮年の男性は戸惑っている人が多いんですよ。
平山
いわゆるサードプレイス難民ですね。
豊田
人材系の社長と話したときに、壮年の方は仕事が終わるとイートインコーナーで酎ハイを飲んでいるといった話が ありました。自分が自信を持ってやってきた仕事がAI に取って代わられたときにどうするか。人生100 年時代といわれ ている時代に将来をどう生きるか。そこに危機感を持たないで大丈夫なのかということをすごく思います。来るべきそのときに戦う武器となる能力を身につけていくべきですよね。
平山
「2・6・2 の法則」でいうと、真ん中の6 が、下の2の世界に引っ張られないようにする、さらに上の世界に羽ば たいた2 に魅力を感じて近づいていくようにするといったマネジメントも重要ですね。舘野さんのお考えはいかがでしょう。
舘野
ありきたりですが自己実現、自分で選択できることの価値が、非常に重要になってきていると思いますね。以前の ように会社は守ってくれないことは、みんな理解しています。だから前の世代の方が、自分の持っている能力の60% ぐらい会社に捧げていたとしたら、今の人たちは40%、30%しか出していないかもしれません。その状況下では、 会社が縛ろうとする場合と、選べる自由を与えるのとでは、大きくモチベーションが違ってくると思います。
平山
働き方変革に抵抗感を示す人もいますが、より多くの 人が変革によってもたらされるハピネスを前向きに信じられ る状況をどうつくっていくのかが、推進力にもなりそうです ね。皆さん、ありがとうございました。

スペシャリストの分析

テクノロジーが進化する時代だからこそ、人間らしいコミュニケーションや交流を大切に舘野 真人

 ここ数年で、企業が支持や共感を得る手段やプロトコルは明らかに変化して います。例えば、ホームページ上に掲載された社長のあいさつ文よりも、何かが あったときにツイッターでつぶやく担当者の短文の方が共感を呼ぶといったこと も起こり得る時代です。また、コラボレーションツールの進化により、人を褒める、 あるいは感謝を伝えるといったことが、「いいね」やスタンプで手軽にできるよう になりました。これらの機能は社内コミュニケーションの活性化にもつながります。

 その一方、自由な働き方の推進により、会社に集まる時間が減り、組織とし ての一体感がなくなってきているという話も耳にします。そこで、ディスカッショ ンしていただきたいのが、強みや弱みも含め自分たちの文化は何かということ。 それを共有認識として持っているのと、前提なしでバラバラに働くのでは、同じ ツールを使っていてもコミュニケーション効率が違ってきます。自分たちの組織 文化は何か。ぜひ、そこに着目してほしいと思います。

働き方改革の主役が働くステージとなるオフィスづくりは総務の手腕にかかっている豊田 健一

 行動を変えることで、意識を変える。平山さんのお話でもありましたが、今、 行動を変えるための大きな要素の1 つとして、イノベーションのきっかけとな る偶発的な出会いの場、何か気になることがあるとすぐに打ち合わせができるス ペース、働く場を自由に選べるフリーアドレスなど、オフィスのあり方が注目さ れています。この部分は、働き方改革の中で、総務部門が最も活躍できる部分で す。このときに、スタイルだけを追わず、会社、社員の姿を正しく把握し、目指す 方向などの本質を捉えることが重要。そのうえで、みんなが将来、ハッピーにな れる働き方を実現できるステージをつくり上げてほしいと思います。  その他にも、現場が本業に専念できるように業務を効率化するなど、総務の役 割はたくさんあります。そのためにも、総務自身が業務を効率化すること。まずは、そこから始めてください。

人事制度は会社から社員へのメッセージ。揺るぎない信頼と褒めることが成果につながる石原 直子

 今、ノーレイティングが1 つのムーブメントになっています。年度単位の業 績で社員をランク付けするのではなく、何かよいことをした、逆によくなかった というときに、リアルタイムにフィードバックをどんどんしていく方が、成果に 結びつく確率が上がります。それにより、社員がよい行動を積み重ねていくこ とが会社のためになっているというメッセージになるのです。  今後、在宅ワーク、テレワークはますます加速することでしょう。そのとき に、サボっているのではないかと疑い始めると切りがなく、疑念を強めること で、有形無形の何か大事なものが失われる可能性が高まります。疑うのではなく 信じる。会社の理念に共感して働いているメンバーだから安心して任せられると いう信頼が、社員に自立心と責任感を芽生えさせ、成果で応えるきっかけになるはずです。

TOP

▲