【働き方改革x人的資本経営最前線】
第4回:ウェルビーイングとは?幸福なチームは成果を出す

新しいリーダーシップ ポーラ IKEA

なぜ今、人的資本経営なのか?
白河桃子氏による連載コラムの第2弾「働き方改革x人的資本経営最前線(全6回)」では、ビジネスパーソンの方へ、今更聞けないさまざまなワードを読み解きながら、働き方改革や人的資本経営の最前線を分かりやすくお伝えします。

最近ビジネスの世界でウェルビーイングという言葉をあちこちで見かけませんか?
ウェルビーイング経営を掲げる企業も増えています。

ウェルビーイングはWHOが定めた「世界保健機関憲章」の中で定義されています。「健康とは、単に疾病がない状態ということではなく、肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にある」とするなかで「ウェルビーイング」を使用しています("Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.")。肉体的、精神的、そして社会的に、完全に満たされた状態にあること=ウェルビーイングということです。また、ウェルビーイングとは日本語では「幸福」とも訳されています。

SDGsの中にも盛り込まれ、ウェルビーイングは今やグローバルな経営課題でもあります。アメリカでは「社員の幸福への投資効率」という研究があり、「企業が社員の幸福に投資」すると、売り上げ、利益、エンゲージメント、創造性などが高まる、逆に病欠、燃え尽き、離職などのマイナスの要素が減るという結果があります。日本でも幸福学の第一人者、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆 教授とパーソル研究所が「はたらく幸せ実感が高まるほど、個人としても組織としてもパフォーマンスが高まる」という研究を発表しています。売上高にも顕著に影響し、「前年に比べ最も売上高が増えたのは幸せ実感が高い会社」でした。これは見過ごせないデータですね。

会社としても個人の幸せ実感、そして組織としての幸せ実感を高めることはメリットがあるのです。個人の幸せ実感の高め方は前野教授の「4つの幸福の因子」を参考にしていただきたいのですが、それではチーム、組織としての幸せ実感を高めるにはどうしたらいいのか?

チームとしての幸せに取り組んだ研究成果を、株式会社ポーラ代表取締役 及川美紀さんと一般社団法人ウェルビーイングデザイン理事、幸福学の研究者、前野マドカさんが、共著「幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条」(日経BP)として発表しました。

出所:「幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条」(日経BP)

ポーラの化粧品をクライアントに販売するビューティディレクターを対象にした調査で、どのようなチームが成果を出すのか、その成果と幸せの関係を分析したもので、チームビルディング、組織開発にも貴重な資料です。

きっかけはポーラが「幸せ研究所」をコロナ禍で始めたこと。研究所のパートナーである前野マドカさんがポーラの店舗を訪ねたとき、本来なら個人事業主であるビューティディレクター たちが、チームとして自分の顧客以外にも目配りし、時にはサポートし合う状況を見たそうです。本来なら個人事業主としてライバルになりうる人たちなのに・・・・・・その姿が「幸福学のセオリーを実践している職場であり、チーム」であることに、幸福学の研究者として衝撃を受けたと前野マドカ先生は言っています。優れた成功事例の店舗をヒントに、全国にあるポーラショップの幸福度と成果を分析する試みが始まりました。そして高い幸福感、高い成果を生み出すビューティディレクター たちのインタビューをもとに、チームビルディングとマネジメントのルールをまとめたのが以下の「幸せなチームづくり7か条」です。

1.対話する・目をつむらない
2.ジャッジしない・正解を求めない
3.執着しない・リセットする
4.任せる・委ねる・頼る
5.経験を教訓にする
6.相手を変えるのではなく自分が変わる
7.愛のループを自分から始める

新しいリーダーシップの実践として、とても参考になりました。

私が初めてビジネスプレゼンの中で「幸せ」という言葉を聞いたのは、「働き方改革実現会議」(2017年より)のヒアリングにおけるIKEAの方のプレゼンでした。「お客様も社員も幸福に」というポリシーが印象的でした。当時は「お客様は神様」であっても、社員の幸福に着目している日本企業はなかったと思います。それが今や「働く人の幸福」「チームの幸福」が「成果」に結びつくという事例が、さまざまなところで出てきています。

また「幸福」は伝播します。社員を幸せにすることは、社会を幸せにする企業のミッションにもつながります。ポーラが「幸せ研究所」を始めたのは、コロナという存亡の危機にあたり企業理念である「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福の実現」に立ち返ったからだそうです。みなさんの会社には社員を幸せにするマネジメントがあるでしょうか?「ありがとう」が飛び交う職場は幸福度が高いそうです。ウェルビーイングマネジメントの実践として、まずは「ありがとう」から始めてみるのはどうでしょう?


[2023.11.29公開]

参考資料

* パーソル総合研究所×慶應義塾大学 前野隆司研究室「はたらく人の幸せに関する実証研究 結果報告書」

* 及川 美紀、前野 マドカ 著「幸せなチームが結果を出す ウェルビーイング・マネジメント7か条」(日経BP)

著者白河 桃子(しらかわ とうこ)
相模女子大学大学院 特任教授、昭和女子大学 客員教授、iU 情報経営イノベーション専門職大学 超客員教授、東京大学 大学院情報学環客員研究員

東京生まれ。私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒業。中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了(MBA 取得)。
住友商事、リーマンブラザーズなどを経て執筆活動に入る。2008 年に中央大学教授の山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員などを務める。働き方改革、女性活躍、ジェンダー、ダイバーシティ経営などをテーマとする。
著書に『ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち』(中公新書ラクレ)、『働かないおじさんが御社をダメにする ミドル人材活躍のための処方箋』(PHP 新書)など多数。
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