セミナーレポート

テレワーク時代のオフィス空間戦略 ~コミュニティ・ベース・デザインによる発想豊かな働く場づくり~

Steelcase 社員が出社したくなる空間

新時代の働き方に必要なオフィスとは?
内田洋行セミナーより、フランスの都市計画で注目される『コミュニティ・ベース・デザイン』を活用し、従業員エンゲージメントと創造性を高める空間づくりの実践手法をご紹介します。

2025年7月9日に開催した「UCHIDA FAIR in 名古屋」における、スチールケース社の発表「世界の働き方 コミュニティベースドデザイン」 をセミナーレポート形式で紹介します。

※スチールケース(本社:米国ミシガン州)は1912年に創業された世界最大のオフィス家具メーカーです。

講師



Steelcase Asia Pacific Vice President,
Sales‐Asia Pacific
Jason Taper 氏




日本スチールケース株式会社
セールスディレクター兼日本市場責任者
Robert Lau 氏

ニューノーマル時代の新たなオフィス課題

現在、私たちはかつて経験したことのないほど急速かつ激しい変化の時代に直面しています。過去5年間に、働き方は何世代分もの変化を遂げました。この絶え間ない変化への疲労が、従業員エンゲージメント低下や生産性の停滞を引き起こしています。しかし、リモート環境を前提とした働き方が「新たな常態(ニューノーマル)」となりつつある中で、従来型のオフィスワークへ完全に回帰することは現実的ではありません。社員にオフィスに出社してもらうためにはどうすればいいのでしょうか。
その鍵となる「4つの主要なマクロシフト」についてご紹介します。

オフィス変革の鍵となる「4つの主要なマクロシフト」

1.画面越しのコミュニケーション

画面越しのコミュニケーションは、コロナ禍によって加速された最大の変化の1つです。世界11カ国での調査結果によると、会議における56%がリモート参加者を含む会議であることがわかりました。出社する際のオンライン会議については、50%の従業員が自分のデスクで行っており、「移動せずに個人スペースから接続できる方が簡単」という理由で、人とのつながりよりも利便性を重視する傾向が強くなっています。どのようにして働く人々のために最適な場所や体験を設計するかが重要なテーマとなっています。


2.AIの急速な拡大

現在ナレッジワーカーの75%がAIを業務に活用しているという調査結果があり、わずか半年で倍増しています。AIを効果的に活用するためには、使いたい人が、使いたい場所で、使いたい方法で直感的に利用できるような空間環境の整備が不可欠です。これは、スマートフォンが直感的なUIやUXによって広く普及したのと同様です。AIという新しい技術が自然に人々の働き方に溶け込むためには、行動様式に合った空間設計を行い、テクノロジーを備えた個人スペースや、AIとの相互作用を支えるデジタルとフィジカルが融合した環境づくりが重要になります。

3.サステナビリティ思考

サステナビリティは、どの企業にとっても最優先の目標となっています。日本では768社がSBT認定(*)を受けており、これは世界最多の数字です。新入社員や中途採用者においても、サステナビリティに関わる役職の割合が39%まで増加しており、サステナビリティを専門とする「グリーンカラーワーカー」という職種も生まれています。

オフィス家具素材の選定や資源の調達方法においても環境への配慮を強化し、製品が使用されなくなった後の「アフターライフサイクル」も考慮することが重要となっています。リサイクル素材の使用やカーボンニュートラルの認証取得など、持続可能な労働環境の整備が求められています。

* SBT認定:企業が設定する温室効果ガス排出削減目標が、パリ協定が求める水準と整合しているかを認証する制度

4.緊急を要するウェルビーイング

ウェルビーイングの観点では、世界平均で66%の従業員が現状のオフィス環境に満足していないという深刻な結果が出ています。特に日本では、7割以上の従業員が「仕事に意欲的でない」と回答しており、ワークライフバランスも年々低下していることがわかりました。日本は、世界平均に比べてコロナ禍以降の出社率が高く、オフィス空間への満足度の低さが働く意欲に関係している可能性を示唆しています。
従業員が最も期待しているのはプライバシーの確保です。ハイブリッド対応の会議スペースや十分な電源設備など、新しい働き方にふさわしい環境整備が求められています。

また、多様性とインクルージョンを尊重する環境作りも重要です。たとえば、車椅子の人が通れるスペースの確保や、働くママが子どものために搾乳する空間の提供など、どんな人でも働きやすいオフィス環境作りの工夫が求められます。

コミュニティ・ベース・デザインという解決策

新時代のオフィス空間作りにおいては、「コミュニティ」が鍵になります。コミュニティスペースを物理的に提供するだけでは不十分で、社員同士のつながりやコミュニティを形成する仕組みが重要です。

コミュニティ・ベース・デザインの考え方は、フランスの都市計画からインスピレーションを受けており、次の5つの要素が必要とされます。


1.シティセンター

人々が集まり交流する中心的な空間です。オフィスにおけるメインの交流拠点となり、人を引き寄せ、対話を促し、人と人の絆と信頼を築きます。

2.ネイバーフッド

小さな公園や個人経営のカフェのような、リフレッシュやコラボレーションができる身近な場所です。オフィスでは、大人数が一方向に並ぶデスク配置ではなく、少人数のグループごとの作業空間を作ることで実現できます。個人の集中ワークとチームメンバー同士の絆の両方をサポートし、チーム力を高めます。

3.ビジネス地区

コラボレーションを中心にした空間作りが重要なエリアです。人が集い、コラボレーションする多種多様な共有スペースが、創造性を促しイノベーションを生み出します。

4.アーバンパーク

人々が本を読んで集中したり、昼寝をしたり、仲間と会話を楽しんだりできるリラックススペースです。周囲の視線を気にすることなく心を癒し、リフレッシュしながらウェルビーイングを管理できる「場」です。

5.ユニバーシティ地区

学びや交流を促進する空間です。知識の共有や成長を促すキャンパス的な要素をオフィスに取り入れることで、活気に満ちたコミュニティが生まれます。
体系的な学習とカジュアルな学習の両方をサポートし、学習する組織文化を育みます。


これら5つの要素を組み合わせ、オフィス空間をゾーニングすることで、従来の固定的なオフィス空間から、多様な人々が交流するダイナミックで魅力的な空間に変化させることができます。

社員が出社したくなる空間を実現するための「フレームワーク」

実際の空間設計においては、「共有」と「所有」という2つの軸を縦に、「個人」と「チーム」という軸を横に設定することで、空間を明確に分類するフレームワークを活用します。


  • 1人で使う共有スペース
  • チームで使う共有スペース
  • 1人が所有する空間
  • チームが所有する空間

これらを組み合わせることで、それぞれの働き方に応じた空間設計が可能になります。
このフレームワークは「ワーク(仕事の内容)」「スペース(物理的・デジタルな空間)」「カルチャー(組織文化)」という3つの要素によって支えられており、AIの導入によって働く環境が複雑化する中でも、それをシンプルに整理しやすくする構造となっています。

空間設計においては、働く人の行動をAIのプロンプトのようにとらえ、「こういう行動を起こしてほしいから、こういう空間を設計する」という考え方に基づいてスペースを作ります。たとえば、デスクとデスクの間に高めのプラットフォームを設置することで、心理的安全性を確保した上で隣同士の自然な会話を促すことができます。

関連リンク:ORGATEC TOKYO「Vol.6 デザインファニチャーに見るオフィスでの「個」の在り方

重要なのは、データを分析し読み解く「センスメイキング」の力です。データを通じて、企業文化や働き方といった定性的要素も定量的な数値として把握し、実際の働き方に即した空間を具現化していきます。

当社の製品であるコ・クリエーションは、「これからの働き方に必要な要素とは何か」をデータから導き出し、そのニーズに応える形で開発されたものです。
デスクの配置や物の数、席の数を簡単に増減できるモジュラー設計となっており、先述のフレームワークと組み合わせることで、企業の成長や組織変更に応じた柔軟な空間再構成を可能にしています。 このような総合的なアプローチにより、社員が自然と出社したくなる魅力的なオフィス環境を実現することができます。

デジタルとフィジカルの融合で目指す理想的なオフィス作り

変化の激しい時代だからこそ、私たちは蓄積されたデータをAIによって掘り起こし、次の価値へと転換する取り組みを続けています。デジタルとフィジカルの融合が求められる今、働く環境そのものがAI活用の質を左右し、人とテクノロジーの相互作用を支える空間設計がますます重要になっていくでしょう。私たちは、AIと共存するワークスタイルを見据え、真に人が集まりたくなるオフィス空間の創造を通じて、企業の未来を支えていきます。

Steelcase(スチールケース)の商品一覧はこちら

[2025.10.23公開]

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著者オフィス分野 コラム編集チーム
内田洋行オフィス分野のコラム編集チームです。オフィス空間づくりやオフィスデザイン、働き方に関するお役立ち情報やトレンド情報をお客さまにご紹介します。
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